表紙 本文 挿絵

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 刊行以来、ロングセラーを続けている現代日本の絵本を代表する一作である。幼い女の子が一人ではじめておつかいをする、というストーリーを優しく穏やかな画風の絵で描いている。文章を担当した筒井頼子(1946〜)と絵を担当した林明子(1946〜)がはじめて取り組んだ物語絵本。
 5歳の女の子みいちゃんは、ママに「あかちゃんのぎゅうにゅうをかってきて」と頼まれる。100円玉を握りしめ、坂の上のお店まで買いに行く。お店でのみいちゃんの行動や心の動きが詳細に丁寧に絵と文で描写される。なんとか牛乳を買えたみいちゃんはお釣りをもらうのも忘れて店を飛び出してしまった。「自分が一人前に扱ってもらった」という誇り、課題達成こそが子どもの成長を大きく促す、というテーマは、読者である子どもの共感だけではなく、子どもを育てている大人の心にも響きあうものとなった。表紙は牛乳を抱えて満面の笑顔のみいちゃんのアップである。これはお使いを無事に終えて家へ帰ってきて、ママにみいちゃんが見せた笑顔であろう。
 カラーインクと色鉛筆で描かれた林の絵は写実的で親しみやすい画風で、その観察力は鋭く、ユーモアがあり、細部の描きこみに特徴がある。迷いネコの張り紙のネコが他ページの絵の中にいたり、ストーリーとは直接関係のない描きこみは読者を楽しませると同時に作品の世界の中に引きずり込んでしまう。
 林の絵については「絵本として成功させているのは、林明子の視覚的な表現(絵)の計算の妙」(松田司郎、1990)、「子どもの成長の歴史の中の瞬時の表情を的確に絵の中にとどめる技量をもっている絵本作家」(長谷川摂子、1988)、「幼い児を見守る暖かいまなざし」(香曽我部秀幸、1999)といった評価に加え、「人物の描き方や背景の樹木などをみると、まだまだ類型的なところ、表現の弱さが目につく」(松居直、1984)という厳しい指摘も見られる。
 本書は、月刊予約絵本『こどものとも』(1976.3)と同時に特製版として発行された。さらにその後「こどものとも傑作集」(1977.4)として刊行された。

[解題・書誌作成担当] 中川あゆみ