やんちゃな子ネコのノンタンを主人公とする幼児向けの大友康匠(1934〜1995)と大友幸子(1947〜)による絵本シリーズ「ノンタンあそぼうよ」の第1作目。シリーズ累計2600万部(2002年)という子どもの本の世界では大ベストセラー、ロングセラーとなっている。子どもの日常生活に密着したテーマ、独特のリズムを持った言葉と単純でわかりやすい絵が子ども読者を引きつけたが、その絵や文体には批判も多い。
 ノンタンが一人でぶらんこに乗っているところにうさぎさんがやってくる。くまさんやぶたさん、いろいろな友達がやってきて「ぶらんこのせて」と頼むが、ノンタンは代わらない。怒りだしたみんなに「10までかぞえたら、じゅんばんかわるよ」と言ったものの、ノンタンは実は10まで数が数えられなかったという筋書きの絵本である。
 輪郭は太く震えるような線で描かれ、顔は常に正面を向いている。その表情は単純化され、笑っているのか、怒っているのか、泣いているのかが簡単に見て取れる。背景の描きこみは少なく、木やぶらんこ等必要なものだけがごく単純な線で描かれている。全体的に平面的で動きが感じられない。アニメーションフィルムの静止画像といった印象である。言葉は大変リズミカルな会話文のみで構成されている。「ノンタン ノンタン、ぶらんこ のせて」に見られるような「四四調」(笹本純、2001)の文体は、助詞や用言が可能な限り省略されている。
 ノンタンシリーズの最初の構想は、「あかんべきつね」というキツネの子を主人公にしていたが、編集者の意見により白いこねこに変更され、3冊セット(本書、『ノンタンおやすみなさい』『あかんべノンタン』)の企画で始まった。決してよい子でない<やんちゃ>なキャラクター、ネコという子どもの身近にいる動物、ぶらんこの順番、あかんべやおねしょ、入浴等、どの子どもも日常的に体験している遊びや生活からのテーマの選択、単語をリズムに乗せて並べた会話文主体のテキスト、こうしたことが子どもの共感を容易に得ることに成功したのであろう。だが「内面世界に深くくいこみ、じっくりと発酵するタイプの絵本ではなく」(佐々木宏子、1983)という指摘に見られるように、子どもの心のこまやかな動きには無頓着である。絵や言葉の刺激が強いため、中身をじっくり味わうよりも感覚的に子どもが楽しむ絵本といってよいだろう。
 「ノンタンあそぼうよ」シリーズの他、「赤ちゃん版ノンタン」や「ノンタン布のえほん」「すきすきノンタン」等いくつかのシリーズ、ほかに『ノンタン・タータンあそび図鑑』などの関連本や「ノンタンかるた」等、本以外のさまざまなグッズのキャラクター商品化、テレビ放映やビデオ化、ほかにアニメーションCDともなった。

[解題・書誌作成担当] 中川あゆみ