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 戦後幼年童話の代表作。松谷みよ子(1926〜)長女が3歳になったとき「私の生まれたときのお話をして」とせがまれて作った話である。母親の語りではなく、幼な子の目線で、幼時に感じる不思議の世界をファンタジックに描いた傑作文学といえるだろう。
 冒頭作「モモちゃんが うまれたとき」では、お菓子やカレーの具材がやってくる。けれどもママのおっぱいが一番なのである。乳児にとっての大切なものをきっちりと抑えながら語りかける「ごっくんごっくん」はしっかりと命の流れる文章を表現している。冒頭に続く猫の名前の「クーがプーに なったわけ」では、成長の上での言葉の問題にも触れている。最終章「風の中の モモちゃん」まで全15章から成り立つ本書はモモちゃんの成長だけでなく親の成長をも感じさせ、一つの長編として成立している。一方、章それぞれが独立した作品ともとれ、のちに絵本化された章があることもその現れであろう。
 出版翌月には「新感覚で幼児の成長を描く」作(古田足日『図書新聞』1964.8.22)、「リズム感あふれた楽しいメルヘン」(庄野英二『週刊読書人』1964.8.24)、また「すばらしい話術」「底ぬけに明るく楽しい物語」(中川李枝子『日本読書新聞』1964.9.14)など、評価も高く、第2回野間児童文芸賞、第3回NHK児童文学奨励賞を受賞した。
 のち、シリーズ化され、2冊目『モモちゃんとプー』(1970)では次女であろう人物が登場し、そして3冊目の『モモちゃんとアカネちゃん』(1974)では、児童文学界では当時タブーとされていた離婚を幼年童話で初めてとりあげた点が注目され、赤い鳥文学賞を受賞。30年かかって全6冊シリーズとなった。1974年にはあらたに製作人形の造形写真が加えられ「モモちゃんとアカネちゃんの本」として、ジャケットつきで出版されたが、内容も挿絵もほぼ同一のものである。この74年版は2003年12月で88刷、本書の重版と合わせるとかなりの数になり、いかに愛読されてきたかを証明している。1966年、本書の章に入っている「にげだしたにんじんさん」や「モモちゃんが生まれたとき」などが紙芝居となって童心社から出され、71年には「あめこんこん」や「おくりもの」などが中谷千代子の絵で絵本化、95年には中谷に代わって武田美穂の絵で絵本となった。86年には講談社英語文庫に入った。2003年11月、『ちいさいモモちゃん』40周年を記念して企画展が開催され、その約半年後、会場であった黒姫童話館に松谷から太郎座製作の造形人形が寄贈され、常設展コーナーが設けられた。

[解題・書誌作成担当] 森井弘子