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 あんぱんの顔をしたアンパンマンが活躍する大ベストセラー絵本シリーズの第2作目。一連の「アンパンマン絵本」の発行部数は3300万部を超える(2003.12)といわれている。テレビアニメ化により大ヒットし、多くのキャラクター商品が産み出され、絵本そのものよりもキャラクターにその人気が集まっている。
 おなかがすいて泣いているこざるのもとにアンパンマンが駆けつけて自分の顔を食べさせる。「しにそうなときは いつでも ぼくのなまえを よんでくれ」。その後アンパンマンは湖の怪獣に飲み込まれてしまうが、あまりの甘さに怪獣は吐き出す。アンパンマンの身体は空を飛び、パン工場の煙突に墜落。そこにはジャムおじさんがいて、新しく顔(あんぱん)を作り直してくれる。
 アンパンマン絵本の第1作目は『キンダーおはなしえほん』(フレーベル館)に掲載された「あんぱんまん」(1973.10)である。本当の正義とは立場の違いを超えたところに存在し、自己犠牲無くして正義は行えないという思想に基づいて、戦中戦後の食糧難を経験した漫画家やなせたかし(1919〜)がひもじさからの解放を願って作り出した主人公がアンパンマンなのであった。やなせの描く初期のアンパンマンは、顔付き、スタイル、手、コスチュームも現在のものとはかなり異なっている。ぼろぼろのマントを着て、相手に「食べてください」と自分の顔を差し出すのである。「アンパンマンのいのちは、たべさせることによっていきるのです」「あんまりつよくなく、みかけもよくないのですが、アンパンマンはどんなぼうけんもおそれず、おなかのすいたひとをたすけるためにとびつづけます」(共に『それいけ!アンパンマン』あとがき)とやなせが語るような理想の正義の味方像をそのまま描き出したものだった。
 第1作目の月刊絵本版は編集部での評判は悪かったが、配布先の幼稚園や保育園で人気が出たために、続編が刊行されることとなった。それが本書である。その際「あんぱんまん」の平仮名表記を「アンパンマン」とカタカナ表記に変えた。「アンパンマン」はシリーズ化され、「カレーパンマン」や「ばいきんまん」などのキャラクターを次々に生み出していった。1980年頃よりアンパンマン人気がさらに加速した。それに伴いやなせの絵本観も「まずわかりやすくてきれいで面白く決して下品でなくしかも売れる本」(『季刊絵本』1982.8)と語っているように微妙に変化する。
 1988年にはテレビアニメの放映が始まり、アンパンマンブームが起きた。それに連動する形で様々なタイプの絵本シリーズの他、アニメ劇場版、マンガ版、CD、DVD、ビデオ、紙芝居とあらゆるメディア媒体に進出した。また、文具、食品、衣料品等子どもの身近な持ち物へのキャラクター商品化も顕著で、現在もその人気は衰えていない。

[解題・書誌作成担当] 中川あゆみ