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 “ふきまんぶく”(ふきのとう)と幼い女の子を軸に、土や植物、人間への愛を謳った絵本。絵本の読者対象を大人にまで広げた1970年代の「絵本ブーム」を支えた作品の一つである。
 夏の夜、寝つけないふきちゃんは山へ星を拾いに出かける。だが星のように光っていたのは、たくさんのふきの葉っぱに光る夜露だったのだ。ふきの葉の根元でふきちゃんは眠りこむ。時が過ぎ、次の春まだ浅い頃、ふきちゃんは再び山に向かう。ふきの葉があったところには「ふきまんぶく」がたくさん顔を出していた。
 田島征三(1940〜)が移り住んだ東京都日の出村(現日の出町)での3年間の生活の中から生まれた最初の絵本である。ふきのとうの生命力とその生命に力を与えた土、それに心を動かされたふきちゃんの姿が、泥絵の具の太くたくましいタッチの絵で展開されていく。夏の夜に一人で山に星を拾いに出かけたり、ふきの葉っぱと会話をしたり、早春にふきのとうと再会したり、一見幻想的な物語を、田島の絵がどっしりと土の匂いのたっぷりとする存在感のある作品に仕上げている。ふきや山や全てのものに強い生命力が感じられる。ふきちゃんのイメージがふきのとうに重ねられているが、両者は人間と植物ではなく、同等に命のある、育っていく存在として描かれている。それらが文章ではなく、絵から伝わってくる。「絵を読むことによってしか、この絵本のイメージは誰にも伝えることが出来ない」(『月刊絵本』1973.10)と作者が述べるように、この絵本はイメージが絵本として展開、すなわち絵がドラマを造りだして生まれた作品である。
 第4場面の本文「大きなはっぱを ひらひらさせて、ふきちゃんに はなしかけてくれたようだった」は現在の版では「大きなはっぱを ひらひらさせた」と改められている。
 第5回講談社出版文化賞絵本賞を受賞、また出版に先立つ1972年にNHKテレビで本書の製作過程が放映されるなど、出版当初より注目を浴び、その評価は高かった。「人間の表面の感情にだけはたらきかけてくる絵本ではなく、からだ全体にはたらきかけてくる絵本なのだ」(古田足日、1973)、「一人の画家が大人として子どもの絵本づくりを真正面から取組んだあとに生みだされたものの爽やかさと新しさに満ちており、絵本づくりの曲り角を曲った感がありました」(今江祥智、1973)、という評価の一方で「欲をいえば、もうすこし物語性があってもよかったかなあ、とも思う」(古田足日、1973)、「文は絵にくらべて平面的で文体に緊張感がない。力がとぼしい。言葉が絵のイメージを追いかけているようだ」(松居直、1978)というように、物語、文章よりも絵の評価の方がはるかに高い作品であった。また、「子どもや大人のだれかと共有できる感動」(田島、1977)を描くことにより、大人の読者を獲得したが、逆に「(6歳児にとっては)ふきちゃんとふきまんぶくのイメージがこんがらかっちゃうところがあるんですね」と安藤美紀夫(1977)が述べているように、子ども向けの絵本ではないと評されることもあった。

[解題・書誌作成担当] 中川あゆみ