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 フランス革命を題材にした長編少女漫画。最初の単行書は全10巻。それまでの少女漫画にはなかった硬質なテーマとスケールの大きさ、斬新な主人公像などで多くの読者を獲得した。作者・池田理代子(1947〜)の出世作となっただけでなく、少女漫画ジャンルに大人の視線を集める役割を果たし、1970年代の少女漫画ブームのきっかけを作った。
 物語は史実とフィクションを交えて語られる。18世紀後半、フランス貴族の娘オスカルは、あと取りのいない父の意向で男子として育てられ、成人して王妃マリー・アントワネットを警護する近衛隊長となる。だが、スウェーデン伯フェルゼンとの恋愛に浮き名を流し、連日贅沢な遊興に明け暮れる王妃は、急速に人望を失っていく。密かにフェルゼンを恋するオスカルは、苦しみながら、王妃と王室を守ろうとさまざまに活動するが、そうするうちに彼女自身も階級社会の矛盾に突き当たる。その認識は、幼なじみの平民アンドレの一途な愛情に導かれたものでもあり、身分の違いを越えて、二人は結ばれる。やがて民衆が蜂起すると、オスカルは爵位を捨てて人民側につくが、激しい戦闘の中でアンドレを失い、続いて自身も銃弾に倒れる。戦闘は民衆の勝利に終わり、捕らえられたアントワネットは裁判にかけられ、苦しい牢獄生活の後、死刑に処せられる。
 初出は『週刊マーガレット』。1972年当時、歴史に取材した少女漫画は皆無に近かったため、連載開始に当たって作者は編集者の説得に苦労したというが、結果的には少女漫画史上空前のヒット作となった。とはいえ、歴史ものといっても、前半部は華やかな宮廷文化を背景に繰り広げられるラブロマンスといった、従来の少女漫画的要素も強く、少女読者たちはお馴染みの世界に耽溺するうちに、知らず知らずにフランス革命に関する基礎知識を習得していった。また、複数の主要登場人物の誕生から中年期までを重層的に描くという大河ドラマ的展開も、かつてない試みとして少女漫画の枠を広げた。
 だがこの作品の最大の魅力は、なんといっても主人公オスカルの造形にある。子どものころから父の薫陶を受けた彼女は、文武両道に豊かな才能を発揮するだけでなく、近衛隊長として多くの兵士を束ねる統率力も併せもっている。男性と同等に競い合い、実力で結果を出す女性主人公の在りようは、1970年代の新しい女性像として読者の目をひいた。しかも、軍服の似合う男装の麗人として両性から慕われながら、最終的にはアンドレとの純愛を貫いたオスカルは、少女たちの憧れの的となった。
 連載終了間もなく宝塚歌劇団によって舞台化され、本書の人気にさらなる拍車がかかった。長谷川一夫の演出による1974年8月の舞台が初演だが、その後何種類もの脚本が書かれ、何度も再演されている。1979年にはアニメ化されて日本テレビ系で連続放映された。また、同年にはフランスのジャック・ドゥミ監督によって映画化もされた。

[解題・書誌作成担当] 横川寿美子