表紙 本文 挿絵

(画像をクリックすると大きな画像をご覧いただけます)
 ホットケーキを作る喜び、食べる喜びが、ふかふかと暖かなイメージの動物キャラクター、しろくまちゃんを主人公にして、お母さんや友達との交流の中に描かれている。明快でシンプルな絵とユニークな擬音を重ねたことばで展開するこの絵本は、たちまちに子どもたちの心をとらえ、刊行後30年以上もロングセラーを続けている。
 しろくまちゃんはホットケーキ作りを思い立ち、道具を揃え、材料を用意し、お母さんに教わりながら、一生懸命にそれを作った。材料をかき混ぜるとボールは「ごとごと」と鳴り、フライパンに種を「ぽたあん」と落とすと「どろどろ」と広がり、「ぴちぴちぴち」「ぶつぶつ」とおいしそうな音。「しゅっ」とひっくり返すと「ぺたん」と裏返り、「ぽいっ」とあげて「はい できあがり」。こぐまちゃんとおいしく食べて、お片づけ。
 若山憲(1930〜)は、グラフィックデザインの分野から転身し、絵本画家となったことから、デザイン化したシンプルな視覚表現で、この絵本を描いた。目や鼻の位置で表情が表現され、やや太く強調された腕の位置やデザイン化された胴体の傾斜で動作が表現された。この絵本は、若山憲と、森久左志、わだよしおみの共同制作によるものであり、ユニークな擬音は話し合いによって生み出された。
 森と和田はこぐま社創立当初から佐藤と共にその協同体制の一端を担ってきた。現在、しろくまちゃんとこぐまちゃんの活躍する「こぐまちゃんえほん」シリーズは、3冊セットの第4集まで刊行され、さらに同じ形態で伝承遊びを視覚表現化した3冊セットの別冊も出されている。
 この絵本は、環境問題などの時代背景を反映し、読者からの意見を取り入れ、重版の過程で、初版本の内容を一部描き換えた。まず3版で、空のフライパンからお皿にのったホットケーキに差し替えられ(p.12-13)、次に26版で、初版本の「ふたりで おさらを あらいます/ほら あわの ほっとけーきだよ」のことばと洗い槽いっぱいの泡の絵から、「ふたりで おさらを あらいます/いっぱい たべたね/おいしかったね」のことばと水としぶきが描かれた洗い槽の絵に変更された(p.21)。このことは、単に読者の声に耳を傾けるこぐま社の姿勢を表すものではなく、制作者と読者の垣根を越えて、絵本が双方向のコラボレーションによって創造されるものであることを表している。

[解題・書誌作成担当] 大橋眞由美