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 日本の長編動物冒険ファンタジーの嚆矢といえる作品。アニメーション化を通して人気を博し、現在も出版されている息の長い作品である。
 安全な巣の中で悠々と過ごしていた町ネズミのガンバは、友だちマンプクの誘いで港ネズミのパーティに行く。そこで、ほど近い島のネズミ忠太が自分たちの仲間がイタチに襲われ、絶滅の危機にあるという窮状を訴えに来たのに出会う。ガンバと15匹の個性的なネズミが忠太たちを救うべく、島へ乗り込む。島では忠太の家族、米倉に隠れ住んでいたネズミたちとともに海岸の岩の隙間に隠れ住み、イタチを迎え撃とうとする。しかし、イタチのリーダーノロイは、ネズミをたぶらかすような歌や踊りや食べ物でネズミを捕らえようとする。ネズミたちの結束が危うくなるなか、リーダーであるガンバはオオミズドリナギの助けを借りて、イタチを退治し、ネズミたちを無事、隣の小さな島へと移動させる。
 前作『グリックの冒険』が処女作で、第4回日本児童文学者協会新人賞(1971年)を受賞。『冒険者たち』の後、続編『ガンバとカワウソの冒険』を書いて3部作とした。
 著者は、ハドソン著『夢を追う子』、グレーアム著『たのしい川べ』、トールキン著『ホビットの冒険』などのファンタジーから強く影響を受けたと述べており、動物の描かれ方、ノロイの登場する場面の描写等に『たのしい川べ』との共通性を見ることができる。また著者は、10歳という年齢が大人と子どもを隔てる特別な年齢であったと回想しており、「書く」という行為を通して10歳に再会し、10歳をとらえようとしたと述べている。本作品では、「故郷の雪の中から夢見ていた南の海を、具体的に描いてみることによって」10歳に迫ろうとした作品であると述べている(斎藤惇夫、1987)。本作に登場する島の舞台は八丈島である。挿絵は薮内正幸。勢いのある線で動物の生態を最大限に生かしながら、一方で表情豊かで個性のある登場人物を描いており、この挿絵によって作品の魅力が倍増されている。
 作品は構成がしっかりしており、行きて帰りし物語になっているという点で、ファンタジーの常道を押さえた作品であり、そのことが完結性(石井直人、1987)につながっているが、一方でそのことが図式的(清水真砂子、1975)という評価もなされている。また、次々に事件が起こる展開は、長編であるにも関わらず一気に読めるおもしろさにつながっているが、一方で、登場人物がストーリー展開に当てはまるように描かれているという批判にもつながっている。
 1975年よりテレビアニメーションとして、全26話放映された「ガンバの冒険」は、1984年に「冒険者たち、ガンバと7匹のなかま」一本の劇場用として再編成され、それがDVDとして販売されている。また、1978年には講談社文庫として出版され、1982年に表紙などの絵を変えて同じ版型で岩波書店から出版された。

[解題・書誌作成担当] 藤本芳則