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 『しっぽ』は、まずいろいろな動物のしっぽだけを提示し、次ページにその動物の全身像を示すことを繰り返す、なぞなぞ的なナンセンス絵本。長新太(1927〜)らしいとぼけた味わいのあることばと、それぞれの動物の特徴をよく捉えた絵でなっている。形態は小型本、大きな字体、単純な展開となっている。
 第1場面の見開き、左ページは白色地にことばと絵、右ページは黄色地の無地に二分される。ことばは「ぽさ ぽさ/ぽさ ぽさ」、絵はノド部分にその先を隠した赤色のしっぽ。ページを繰ると、見開きに緑色の木を描き、そこに登る黄色い傘をさした赤色のリス。黄色と黒色がアクセントに配色される。ことばは「ぼく りすです」。その後、キツネ、ヘビ、クマ、イヌとしっぽの持ち主は変化し、最後に人間の手が「バイ バイ バイ バイ/さようなら」。長の作品には単純な繰り返しのものが多いのだが、必ずといってもいいほどに、中程に裏切りが仕掛けられ、最後にオチがつけられる。『しっぽ』の場合は、どこがしっぽなのかの判断のつきかねるヘビを中間に起き、最後にしっぽのない人間の手でオチをつけている。
 長新太は漫画出身のイラストレーターで、現在に至るまでその作品数は数百冊に及び、中には『ごろごろにゃーん』(福音館書店、1976)など、現代の絵本史上のメルクマール的なものもある。その画風は、初期には漫画家らしいポキポキとした直線で構成され、その後にモジャモジャとした曲線に変化し、さらに明快な色彩による面構成に移行した。『しっぽ』の場合、表紙絵にモジャモジャ曲線でライオンのしっぽの先が描かれ、中身の視覚表現は面構成でなり、線から面に移行する時期の作品といえる。この絵本は絵もことばも1人で描き始めた初期の作品であり、長の自由でユニークな発想が『しっぽ』には生かされている。
 初版本は光沢加工がないが、重版にはそれがある。大阪国際児童文学館所蔵20版(1990.3)と27版(2003.6)を比較すると、見返しの地色は、前者のくすんだ深緑色(VD73G1:B70-C30-M0-Y30)に対して、後者では明るい深緑色(YD35G3:B30-C90-M0-Y50)になり、何れも光沢加工されていて、27版の方が明るく見やすい、といったように版を重ねるときに色を変えていると思われる。

[解題・書誌作成担当] 大橋眞由美