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表紙 | 本文 | 挿絵 | |||
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中学三年の少年「おれ」(真治)が語るひと夏のできごとを、三木卓(1935〜)が鮮やかに描き出した一作。 真治は大男とけんかをしている若い男に加勢した。若い男は思いがけず、地元の人気ロックグループ、ザ・フラッグスのリーダー彰五だった。これが縁となって真治は憧れのフラッグスのマネージャーとなり、メンバーや彰五の妹、先輩船乗りらと親しくなる。真治はアーチェリーに打ち込んでいるが、足が不自由なこともあり、父親との折り合いが悪い。実はメンバーもそれぞれに事情を抱えていた。フラッグスにプロデビューのオーデション通知が届くと、一同は故郷での盛大な歓送コンサートを成功させた。フラッグスは希望に燃え東京へと旅立ったのも束の間、夢破れ早々に帰郷するはめになる。既に彼らの故郷での居場所はなくなっている。真治のトレーニング仲間でボクサー志願の源太も、真治をかばい大男を殴ってしまったことからプロの夢を断たれてしまった。行き場を失った若者達は廃船に乗り込み、夜の海に漂いながら自由な演奏を続けるのだった。 真治を語り手に、才能あふれる彰五を中心に若者達の夢と挫折が描かれる。彼らはそれぞれの問題と向き合い、大人や地域社会に対するやり場のない反発と憤りを抱くのである。彼らの抱える問題は何一つ解決せずに物語は閉じるのだが、現実の圧迫に対しそこから自由になろうとする象徴的な結末には、むしろ若者の力強さが感じられる。そのエネルギーは、発表された1970年代初めまでの高度経済成長期にあった日本社会の力と重なり合うかのようだ。随所に見られるフラッグスの歌詞とその象徴性に、詩人でもある作者の特色がよく表れている。また、北の港町を舞台に、ドラマの小道具としてロック・グループやエレキギター、アーチェリーなどが散りばめられ、当時の若者の持つ洗練された趣味が感じられる。篠原勝之の象徴的な挿絵は、そういった洒落た雰囲気とともに本書の世界を十分に生かしている。 本作は1969年秋から1971年夏にかけて書かれ、『滅びた国の旅』『星のカンタータ』に続く、三木卓の少年小説の3作目にあたる。発表当時から三木の象徴的な世界が注目され、高く評価されていた。 後に講談社文庫の一冊として収められ、より多くの読者を獲得する機会を得た。 |
[解題・書誌作成担当] 小野由紀 |