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 戦争児童文学と呼ばれるジャンルの中で、声高に戦争反対を叫ぶのではなく、読者に身近な犬と子どもとの交流を通して戦争の痛ましさを訴えた作品である。動物児童文学者として評価の高い椋鳩十(1905〜1987)の動物のいきいきした描写にも特色がある。
 マヤは熊野の狩人から貰い受けた熊野犬。ニワトリのピピやネコのペルとも仲良し。マヤが家に送られて来た時すばやく懐に入れたのが次男だった。それからマヤは次男に懐くようになった。1931年の満州事変から第二次大戦に発展する中で食べ物も着るものも不足するようになる。「犬を飼うのはぜいたくだ」と言う声も聞かれるようになる。町の人たちは犬を差し出すように求める。広場に集めて殺すことになる。研究材料にするためと嘆願書を出したが効き目はなかった。ついにマヤも広場に連れて行かれ、脳天に、太い棒の一撃を受ける。次男はショックで40度の熱を出して寝込んでしまった。しかし、マヤは息を吹き返して次男の下に帰ってきた。そして、次男の匂いのする下駄を見つけ、その上で息を引き取った。
 動物たちはみんな仲良し、しかし人間は戦争の中でいがみ合うことになる。淡々とした筆致がかえって戦争の痛ましさを伝えてくれる。椋文学のテーマとも言うべき「命のうた」「命へのいつくしみ」を見事に謳いあげた作品である。
 椋は1971年『モモちゃんとあかね』と合わせて赤い鳥文学賞、児童福祉文化奨励賞受賞。「その感動の底知れぬ深さと、リアリティの強さによって、すぐれた古典性をもって読みつがれていく第一級の作品」(鳥越信)と高く評価された。1996年、アニメ映画「マヤの一生」(神山征二郎監督)が虫プロダクションによって制作された。

[解題・書誌作成担当] 大藤幹夫