水野石文・川島健三(水野プロダクション)
表紙 本文
挿絵 サンコミックス版(左)・講談社版(右)

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 紙芝居作家からマンガ家に転じた水木しげるによる妖怪マンガ。鬼太郎の物語は、はじめ貸本向けマンガ誌『妖奇伝』(兎月書房、1959)に掲載され、同年同社より『墓場鬼太郎』なる単行本のシリーズとなった。ともに貸本屋向けのマンガである。それをもとに、『週刊少年マガジン』(講談社)に1965年から連載を始めたのが本作品である。連載当初は「墓場の鬼太郎」のタイトルであったが、1967年11月より「ゲゲゲの鬼太郎」と改題、1968年のテレビ化により大ヒット作となる。『週刊少年マガジン』連載の作品は、最初講談社より『墓場の鬼太郎』(1967.5)のタイトルで、全1巻の本で出版される。ついで翌1968年3月に、『ゲゲゲの鬼太郎』と単行本名を改め、同出版社より全9巻(第9巻は1969年2月刊)の本で刊行された。本単行本は、改題ののちの1巻目にあたる。 
 貸本向け作品において鬼太郎は、不幸な誕生をする。激減した幽霊族の夫婦が病に倒れ死ぬ。母のお腹のなかにいた鬼太郎は、土葬された母の胎内で成長、嵐の夜に土のなかから生まれ出る。一方父親の方は、自分の息子の行く末に気にかかり、目玉にとりついて再生する。目玉おやじとして、その後ずっと鬼太郎と行動をともにするのである。本単行本では、そうした誕生のいきさつは省かれ、鬼太郎をめぐる妖怪たちとの抗争を中心としたドラマに移行。どちらかと言えば、貸本マンガでのおどろおどろした雰囲気は後退している。
 講談社版では物語は、鬼太郎、目玉おやじを中心に展開。鬼太郎と知り合ったさまざまな妖怪たちを加え、この世および地獄を舞台に事件を解決する姿が描かれる。2人以外のキャラクターとしてはねずみ男が出色。出っ歯でギョロッとした目、風呂にも入らぬ不潔な身なり、やたら屁をひり息がとてつもなく臭いという設定が、鬼太郎以上に読者の注目を集めた。水木の語るところによれば、このねずみ男のキャラクターは、自分自身の姿が投影されたものという。
 ちなみに、鬼太郎のキャラクターは、水木しげる(1922〜)のオリジナルによるものではない。戦前にあった伊藤正美作の街頭紙芝居がモデルであるとのこと。もともと、紙芝居の方は妊娠したまま殺害された女の怨念が、おなかのなかの赤ん坊に乗り移り、土の中から赤ん坊が誕生するという、おぞましい設定であったらしい。水木は、それを幽霊族の生き残りという設定に移しかえ、また目玉の父をサブ・キャラクターにすえて、独自の妖怪ものを生み出した。その後鬼太郎ものは、さまざまな雑誌に描き継がれ、単行本化も頻繁に行われたが、1986年からは再度『週刊少年マガジン』にリバイバルとして再連載されている。
 ドラキュラや狼男など西洋の怪物ではなく、日本の妖怪を民俗学的な知見のもとに描いた点に特色がある。戦後の少年マンガ史のなかに、妖怪ものを定着させた歴史的作品であると言える。紙芝居、貸本マンガなどの通俗的文化と強いつながりがあり、今日でも幅広いファンをもつ。

[解題・書誌作成担当] 竹内オサム