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 吸血鬼の少年が、二百余年の間、欧米各地を転々とさすらう様を短編連作形式で描いた少女漫画。作者・萩尾望都(1949〜)の初期の代表作である。強い絆で結ばれた二人の少年を中心に、人間の孤独や喪失、愛や葛藤を、緻密な構成と繊細な画風で描いて、その後の少女漫画界に大きな影響を与えた。最初の単行書は全5巻。
 物語は互いに複雑に絡み合う15話からなる。語られる順番は時間の流れと必ずしも一致していないが、それらを時系列に沿って語り直せばおよそ次のようになる。
 主人公のエドガーは幼児期に妹メリーベルと共に森に捨てられ、ポーの村に住む老ハンナに拾われて育てられる。数年後、エドガーはその村がバンパネラ=吸血鬼の村であると気づくが、妹の身の安全と引き換えに、自分も成人後には吸血鬼となることを承諾する。だが、村の正体が近隣の人々に露見した混乱の中で、彼はまだ14歳で無理やり一族に加えられてしまう。エドガーは我が身を呪い、二度と会わないつもりで養家で暮らす妹を遠くから見守るが、彼女はすべてを知った上で兄について行く決心をする。
 その後兄妹は同じ一族の夫妻の養子として長い年月を共に暮らすが、ある時バンパネラの正体が露見したメリーベルは銀の銃弾に撃たれて消滅、夫妻も相次いで消滅する。その直後の深い孤独感から、エドガーはやはり孤独を抱えた少年アランを一族に加え、以降二人だけで長い時をさまよい続けて多くの人間と接触する。彼らと知り合った人々は、年をとらない不思議な少年の記憶を子や孫に語り継ぎ、やがてバンパネラに魅せられた人たちが二人の後を追い始める。
 エドガーの孤独の根本には、自分がひとりぼっちの寂しさから逃れるためには、愛する者を自分と同じ運命に引き込まなければならない、というジレンマがあり、彼は妹を幸せにできなかった自分をずっと責め続ける。だが、その思いはアランには理解されず、彼らは互いに相手に強く執着しながら気持ちをすれ違わせ、なおさら孤独を深めていく。このあたりの展開は、後に少女漫画界の重要なモチーフとなる少年愛に通じるものである。
 初出は月刊誌『別冊少女コミック』で、約5年にわたって断続的に掲載された。当時の少女漫画界では、本書のような短編連作はほとんど見られず、読み進むにつれて主人公の過去が明らかになる筋運びは斬新ではあったが、読書経験の乏しい読者には読みにくくもあった。一つの話の細部が別の話の伏線となる展開や、細かな心理描写とも相まって、「文学的」「高踏的」との評価がなされ、男性の少女漫画読者をふやした。
 本書と「11人いる!」により、1976年、作者に小学館漫画賞が贈られた。

[解題・書誌作成担当] 横川寿美子