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 戦後児童文学における詩の分野は、1965年頃から活発になり始める。が、戦前から続いてきた抒情的写生詩・リアリズム詩が中心で、非常にまじめであった。そういった詩の伝統に批判的なまど・みちお(1909〜)は、この詩集によって全く異質な新しい世界を開き、児童文学の詩史に現代性をもたらした。その特質は、@ユーモア・ナンセンス・ことば遊びなどの娯楽性、A対象に同化したり宇宙にまで広がる想像力、B生命・存在の本質に迫る哲学性、といった観点で捉えることができる。娯楽性に富む作品には、発想のおもしろさや音の楽しさがある。犬の4本の足に音の違う鈴をつけると「ちりん/ころん/からん/ぽろん」と音がして歩き方がわかるかなという「イヌが歩く」、近藤のバカを逆に読んだ「カバのうどんこ」、のぼる水とおちる水が出会って泡になる一瞬を「のちるる」と表現した「ふんすい」、「手製の/おりに/はいっている」と語る「シマウマ」など。
 まどの想像力は、物や動植物を生き生きと擬人的に描き出す。「石ころ」はかつて星だった自分を思って空を見あげ、「ヒバリ」は畑でさえずりながら青空の鏡に自分が映っていないかと思う。手から落ちてころげて畳の穴に止まったビーズ玉は「地球の用事」を終えて安心し、「スイカの たね」は宇宙を小さくくりぬいて幸せそうにひっそりと居る。「つけもののおもし」では、漬物石は何をしているのかと様々な角度から擬人的に描いた後、「あれは なんだ」と存在の本質を問う。「イナゴ」では、「エンジンをかけたまま/いつでもにげられるしせいで」僕を見ているイナゴ(弱者)と僕(強者)との緊張の一瞬を捉えて、生命(生と死)について考えさせる。
 この詩集は、大日本図書の「子ども図書館」の1冊である。本書全29篇中の18篇に杉田豊のモダンな2色刷りのさし絵がつけられており、詩の味わいを深くしている。大日本図書から童謡集の出版を勧められたまどは、童謡集は既に出しているので詩集を希望した。が、書き溜めていた詩が使いものにならず、半数を新たに創作。従って、既発表の7篇以外は本詩集が初出である。まどは、1934年に『コドモノクニ』で北原白秋に認められ、戦前から童謡詩人として活躍してきたが、1968年58歳で第1詩集を出版した。第6回野間児童文芸賞を受賞して、詩人としての地位を確立。1971年以降の小学校国語教科書には、「イヌが歩く」「ああ どこかから」「つけもののおもし」「てんぷらぴりぴり」「クジャク」「イナゴ」「音」などが採択され、教育現場に大きな影響を与え、多くの子どもたちが詩の楽しさと出会うきっかけを作った。

[解題・書誌作成担当] 谷悦子