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 あまんきみこ(1931〜)は、最初の単行本である本書によって、第1回日本児童文学者協会新人賞、野間児童文芸推奨作品賞を受賞している。『車のいろは空のいろ』収録作品のうち、「白いぼうし」の知名度が圧倒的に高いのは、教科書に収録されているためでもある。あまんは、2000年度、2002年度と小学校国語教科書の採用率が最も高い作家である。
 日本女子大学の児童学科通信教育課程在学中に、与田凖一に創作の指導を受け、童話作家になった。『車のいろは空のいろ』に収録されている「くましんし」は、与田の紹介で『びわの実学校』に投稿された作品である。松井五郎を主人公にした『車のいろは空のいろ』収録の短編連作は、与田の助言によって生み出されたものであった。『車のいろは空のいろ』は、緊密に関連する8つの短編作品で構成されている。それらは坪田譲治が主宰した『びわの実学校』に発表された5編と未発表の3編からなる。
 主人公の松井五郎は、タクシーの運転手になって3年目に「小さなお客さん」で、はじめて人間の姿をした子狐と出会う。次の「うんのいい話」は、タクシーのお客が捕獲した魚を、仲間の魚が取り返しにくる物語で、主人公の住む町が幻想的なもう一つの世界をもつことが明らかになる。「白いぼうし」では、少年に捕獲された蝶が少女の姿になってタクシーに逃げ込んでくる話。「すずかけ通り三丁目」では、お客の指定した戦時下の町へ、タクシーは時間移動する。静かに戦争を告発する作品として評価が高い。次の「山ねこ、おことわり」になると、主人公は人間と人間の姿をした動物が共存する世界を、自覚的に受け入れる。そして「シャボンの森」では、そのような世界を受け入れた主人公が、子どものような純真さを持つ人物であることが明らかにされる。次の「くましんし」は、童話作家あまんきみこの出発点の作品で、他人の悲しみに深く共感する主人公、松井五郎はこの作品から生まれた。最後の「ほん日は雪天なり」では、主人公に対する動物たちの絶対的な信頼が明らかにされる。登場する狐たちは、主人公を同類と信じて疑わない。短編連作の『車のいろは空のいろ』の物語世界は、人間と動物がお互いに助け合い認め合う、本来あるべき共存の世界を描いている。
 1978年には、講談社文庫に収録された。なお『車のいろは空のいろ』の人気は、『続車のいろは空のいろ』(1982)、『車のいろは空のいろ星のタクシー』(2000)とシリーズ化されて出版されていることにも現れている。

[解題・書誌作成担当] 畠山兆子