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 『11ぴきのねこ』は、親しみやすい漫画的な視覚表現でなる絵と、ユーモアあふれる会話を中心にしたことばで綴られた物語絵本であり、こぐま社特有の色別に描き分けられたリトグラフで印刷されている。ネコなどの輪郭線は軽妙な曲線で描かれ、中間色を使用した色調は柔らく、この絵本は表紙絵から明るく愉快な印象を読者に与える。このような描線や色調は、11匹のネコのバイタリティーをほどよく包み込み、初めから終わりまで読者を飽きさせることなく、物語を展開させていく。
 お腹をすかせた11匹のネコが、お腹いっぱいサカナを食べたくて筏に乗り込み、大きな湖に漁に出かけた。ようやく現れた大魚を大格闘の末捕まえて、11匹は大得意。帰って皆に見せると驚くだろうから、「それまでは ぜったいに たべないこと!」。そんな約束をしてみたものの、筏で大魚を引いて帰る途中、よだれを出しながらちらりちらりと振り返り、11匹は落ち着かない。案の定、一夜明ければ大魚は骨だけになり、ネコは大満腹の「たぬきのおなか」になっていた。
 動物キャラクターを主人公に、「食」を素材として、仲間と力を合わせて何かを成し遂げるテーマは、1960年代から70年代に刊行された絵本の人気アイテムであり、そこには高度成長期の日本の社会背景も反映されている。しかし、それは、単に時代的なものだけではなく、ロングセラー作品に共通の特徴の1つでもある。特にこの絵本の場合、力を合わせて物事を成し遂げる品行方正な行動だけではなく、そこからはみ出していく茶目っ気も表現されており、それがネコ同様に好奇心にあふれエネルギッシュな子どもの心を捉える要因ともなっている。とらネコ大将をリーダーに、11匹のネコが繰り広げるバイタリティーあふれるこの作品は、親子共通の思い出の絵本としてロングセラーを誇っている。
 馬場のぼる(1927〜2001)は、独学で絵を学んだ漫画家出身の絵本画家であり、戦後まもなくに雑誌『冒険王』や『幼年ブック』に漫画を描き、『ブウタン』(1954)で第1回小学館児童漫画賞を受賞した。その後、馬場は、絵本や大人漫画の分野にもその活動範囲を広げていった。絵本画家としての馬場は、こぐま社の「おはなしを絵で語る」制作方針や「絵本の中にはドラマツルギーが必要」とする編集方針に生かされ、『11ぴきのねこ』や『11ぴきのねことあほうどり』などの「11ぴきのねこ」シリーズでその漫画手法を使用して、絵で物語る絵本を作者自ら楽しみながら創作している。第15回サンケイ児童出版文化賞(1968)受賞。

[解題・書誌作成担当] 大橋眞由美