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 後藤竜二(1943〜)の長編児童文学。大学卒業前後に執筆され、第7回講談社児童文学新人賞佳作に入選した本作は、後藤のデビュー作であると同時に、子どもたちの日常生活と成長を力強く描き出したことによって、1960年代後半から70年代を代表するリアリズム児童文学の一つに数えられる。
 サブこと森谷三郎の家族は、両親と祖母、5人の子どもたちの計8人。一家は北海道で野菜農家を営んでいる。農家の一日は忙しい。サブや妹のマキも、下校後は畑仕事や家事に励む。6年生になったサブは、新任教師の木山霧子に出会う。早速キリコというあだ名を献上し、親友のジックやロクたちと共謀してさまざまな悪戯を仕掛けるが、次第にキリコの人柄にひかれていく。同じころ、サブは中学生にからまれていた別のクラスのアオを助ける。アオはお礼を届けに来るが、その好意をサブが拒んだことで、両者はぎくしゃくした関係になってしまう。学期末の野球大会で対戦した二人は敵意をむきだしにして戦い、雨に打たれたアオは急性肺炎にかかる。見舞いに出かけたサブはようやくアオと和解する。夏休み。サブ、ジック、ロクはすっかり仲良しになったアオを誘い、川泳ぎや夏祭りなどで短い夏を満喫する。そんなある日、子どもたちは川で飛び込み自殺を図った若者を救う。心身ともに衰弱したその若者を、森谷家の人々は自宅に迎え、静かに見守る。快復のきざしが見え始めた頃、若者は置き手紙を残して姿を消してしまう。手紙には、家族への感謝の言葉が綴られていた。
 本作の特色は、何よりもまず生き生きとした文体にある。後藤はのちに作品執筆当時を振り返って「自ら求めた大都会の学生生活の中で、なにやらカラッポになって、それでもなおつぶされてしまうわけにはいかなかったものを、たしかめてみたい、自分のことばにしてみたいと、そんな気持ちで書き上げました」(1979)と述べている。22歳の青年が自らの「生の実感、生活の根っこ」を確かめる過程のなかから、故郷の北海道が舞台に選ばれ、少年の話し言葉で綴る方法が生み出されていったのだろう。目次のなかに「働いておおいに食べてねむること」と題した章があるが、観念性に拠らず、実体験を通して成長していく子ども像も魅力的である。1978年には講談社より文庫化。文庫版では細部の矛盾に若干の手直しが施された(現物未確認)。なお、1970年には続編『大地の冬のなかまたち』が刊行されている。

[解題・書誌作成担当] 酒井晶代