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 新潟在住の作家・杉みき子(1930〜)最初の童話集。1957年、第7回日本児童文学者協会新人賞を受賞した「かくまきの歌」をはじめとして、『日本児童文学』や『びわの実学校』などに発表された短編作品6篇が収録される。
 出世作と評される「かくまきの歌」は、雪国を舞台に、祖母・母・少女ちや子、と三代にわたって受け継がれたかくまきをめぐる物語である。表題にある「かくまき」とは、毛皮の襟付き防寒毛布のことで、雪国生活での必需品だという。ちや子の家には、母親が祖母から譲り受けた真赤なかくまきがある。母親はその派手なかくまきをなかなか着なかったが、戦後、着るものにも困った時、それを着て行商に歩くようになる。苦労して生活する中、ちや子もそのかくまきを着られるまでに成長した。ある雪の降る夜、ちや子は、宿直の兄にお弁当を届けることになり、そのかくまきを着て出かける。帰り道、同じ様な赤いかくまきを着たおばあさんに出会い、そのかくまきにまつわる思い出話、あたかもかくまきが歌うかのように聞こえる歌を聞かせてもらう。ちや子は、自分のかくまきをめぐる女性たちの暮らしに思いを馳せる。家に戻ると、兄と姉が歌を歌っている。その歌をおばあさんに会えたら聞かせたいとちや子は思う。
 本書に収録されたいずれの作品も、小さな村や町が舞台である。雪や花や山などの自然、電柱やかくまきなどの身近なものたち、そこに暮らす人同士の関わりなどが、落ち着いたタッチで描かれる。また、母親・祖父母の3代に伝わる道具が出てきたり昔の思い出話やその地の伝説が語られるなど、物語が短い時間に留まらず、長い時間の流れを感じさせるのも、杉の作品の特色である。そのため、小さな物語にも奥行きがあり、地に根ざした安定感が生まれている。「屋上できいた話」のように、戦争への思いを描いた作品もある。
 その後も、教科書に掲載された「わらぐつのなかの神様」などのように、雪国の地に根ざした自然や、そこに生活する人々を、愛情と共感をもって丁寧に描き続けている。それは、作者自身が雪国・新潟県高田(現・上越市)に生まれ育った経験の反映であろう。杉を見出した関英雄は、散文詩人でヒュウマニストという点において、同郷で作者と同じ小学校出身でもある作家・小川未明の後を継いでいると高く評価している。
 1979年3月に、ジャケット・あとがき・カットを変えた新装版が出版された。

[解題・書誌作成担当] 厚美尚子