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 「宿題ひきうけ株式会社」は、高度経済成長と受験戦争が進行する日本の1960年代を背景に、状況と積極的に関わり、変革していこうとする子どもを描いた古田足日(1927〜)の作品である。ストーリー展開のおもしろさが読者の心を捉え、愛蔵版や文庫版も出されて広く長く読まれた。
 第1章では、サクラがおか団地の村山タケシ宅に集まった5年生のヨシヒロ、アキコ、ミツエ、サブローが、宿題を効率的に肩代わりして金を稼ぐ「宿題ひきうけ株式会社」を設立。数百円の収入を得るが、クラス内で起こった「地球ぎ事件」によって会社の存在を担任教師に知られ、解散する。六年生になった第二章では、新担任の三宮先生が語った「花忍者」という物語をきっかけに、現代の宿題や入学試験の持つ「やばん」さ=「人間を大切にしない」ありように気づき、未来の試験と宿題がどうあるべきか考え始める。新聞部員として活動する第三章では、「ひとりの成績がよくなれば、ひとりの成績が悪くなる」構造を持ち、子どもたちを競争させる学校教育のあり方が、人間を選抜し、振り落としていくピラミッド型の会社組織につながっていることに気づく。子どもたちは日本国憲法の勉強会を始め、「試験・宿題なくそう組合」を立ち上げて活動し始める。
 第2、3章では、子どもを中心とする事件とともに、アキコの兄が勤めるヤマト電機が行った強制的な人員の配置転換と、それに抵抗する労働組合の活動などが並行して描かれる。これにより、宿題・試験の持つ問題が、現代の社会構造が引き起こす問題とパラレルな関係にあることを伝えている。経済効率が優先される「やばん」な状況を生き抜くために、子どもたちは初め、「株式会社」という資本主義的な組織を作るが、終盤では、資本主義の競争社会そのものを問い直すために団結する「組合」を作って再出発する。同時代に起こった電電公社の人員削減問題や、実際に書かれた児童の作文を引用していることも示すように、現実社会、時代状況に対する強い意識が作品全体の特徴となっている。
 初出は、雑誌『教育研究』。連載第1回の末尾には、この作品が「非教育的」と受け取られるのではないか、という危惧が作者の言葉として載っている。挿絵は連載時から久米宏一が担当。連載終了後、理論社の小宮山量平に促され、一部手を加えて単行本化。作品後半の拙さを指摘されながらも、現代社会に生きる新しい子ども像を捉えた点を評価され、日本児童文学者協会賞を受賞。テレビドラマ化もされている(テレビ朝日1982.3.16放送)。1996年には後半を大幅に改稿した新版を刊行。これは旧版に引用された宇野浩二「春をつげる鳥」と関連して、アイヌ民族差別にあたる記述があったことが原因となっている。このあたりの事情は新版の後書に詳しい。新版発行に伴い、既に販売されていた『全集古田足日子どもの本(7)』(旧版の収録巻)の無料交換も行った。

[解題・書誌作成担当] 藤本恵