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 各地に伝承されてきた「桃太郎」話を読み比べて松居直(1926〜)によって再話された。従来の子ども向きの絵本にある鬼が島から宝物を持ち帰る話を「嫁取り話」に仕立てた点に特色が見られる。日本の昔話として日本画調の赤羽末吉(1910〜1990)の絵も物語にマッチしている。
 桃から生まれたももたろうは、「一ぱいたべると 一ぱいだけ、二はいたべると 二はいだけ、三ばいたべると 三ばいだけ」大きくなった。ある日、一羽の烏が飛んできて、鬼が島の鬼が、村の米を取ったり、姫をさらっていった、と鳴いた。ももたろうは「こどもだから、おにになど かてるわけがない」と引き止めるおじいさん、おばあさんを振り切って、日本一の黍団子を持ち、「にっぽんいちの ももたろう」と書いた旗を持って鬼退治に出かける。行く道で犬、猿、雉を供にする。日本一の黍団子食べたももたろうたちは、鬼どもを片っ端からやっつけた。おわびに宝物を差し出す鬼に「たからものは いらん。おひめさまを かえせ」とお姫様を取り返す。それから鬼も来なくなり、「ももたろうは おひめさまを およめにもらって」いつまでも幸せに暮らした。
 先に示したように「嫁取り」話の桃太郎話に仕立てたところに特色がある。また再話者によれば、桃太郎が「突然に鬼が島へゆく」というあたりが「戦争協力者」にさせられた弱みに繋がるとして「鬼が島行きの理由をなるべく昔話の語りにそって」語らせた。「こういうお話絵本はそうざらにはない」と絶賛する森久保仙太郎は、「日本画調をいかして、たっぷりと水をふくませた水彩の画面が出色である」「絵の中に、連続画風な小画面が試みられているところが、絵本としてすぐれた展開」とする。鳥越信は、「はじめて民衆のあいだで生まれたまま姿にたちもどろうとした、記念すべき第一歩」と評価しながら、結末の、桃太郎に宝を持ち帰らせなかったことは「この絵本のすぐれた価値を、全部ご破算にしてなおお釣りがくるほどの大失態」と批判する。

[解題・書誌作成担当] 大藤幹夫