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 庄野英二(1915〜1993)の代表的長編童話。「理論社の名作プレゼント」シリーズの一つ。戦争児童文学の代表にも数えられる。
 戦争に行くことになったイシザワ・モミイチは、「ツキスミ」という馬の世話をすることになる。その愛馬を戦場で死なせたショックから、彼は幻聴と記憶喪失の後遺症が残り、戦後、もと働いていた牧場へ帰ってきた。牧場の仕事のほかにモミイチは鍛冶の仕事を得意とし、馬の蹄鉄をつくったり、牛の鼻輪、子どものおもちゃなどもつくった。ある時、戦時中に死んだ愛馬ツキスミの幻聴を追っているうちに、ジプシーたちと出会う。様々な楽器演奏を奏で、自然と一体となって楽しく暮らすジプシー楽団たちとの交流により、モミイチの心が解きほぐされていく。ファンタジックに描かれるこの交流場面は、ユーモアたっぷりに、また、風景描写も絵画的で、一つ一つが音楽的で、美しい描写になっている。
 根底には、青春時代を戦争体験ですごした作者の、限りない平和への祈りがこめられている。本書のモチーフと考えられるのが、庄野の最初の童話集『こどものデッキ』(ミネルヴァ書房、1955)の冒頭作「朝風のはなし」である。朝風は鹿毛の美しく毛なみの光った馬で、召集令により、人間と同じように戦地に赴く短編。後半は元気に復員した朝風とともに主人公が空中をかけめぐる夢の話。末尾は「夢ではなく、ほんとに復員してきて平和にいっしょにくらしたい」と結ばれている。本書では、この朝風がツキスミとして登場していることは明らかであるが、モミイチとツキスミが空を翔る、星の花野を駆け巡る、この夢あふれる幻想シーンを支えているのは、イキイキとペン画で描き出された長新太の絵である。長編で大判サイズのこの本は、出版当時も目を惹く魅力的なものであったが、80点以上に及ぶ挿絵は、絵本的要素をもつものとして注目できる。
 林房雄は「文芸時評」(『朝日新聞』1964.3.29)において、「花と音楽と昆虫の物語」「全百五十三節のすべてが音楽より美しい。(中略)まぎれもない傑作で、世界のどこに出しても通用する。」と評した。日本児童文学者協会賞、サンケイ児童出版文化賞、野間児童文芸賞を受賞。
 舞台化、バレエ化、ミュージカル化などされて上演された。舞台稽古から見学するという熱心な作者の姿勢は、1971年の宝塚歌劇での上演においても、主題歌の作詞まで手がけるというほどの思い入れようであった。81年にはテレビドラマ化。また、87年には、映画化されたが、そのロケにも同行し、カメラマンによる撮影現場風景のほか、得意としたスケッチ画を織り込み、『星の牧場 ロケーション紀行』(編集工房ノア、1986)として出版している。『星の牧場』は、1967年には「愛蔵版わたしの本」に、1979年には「フォア文庫」、2003年には「名作の森」シリーズ(すべて理論社)に加えられている。

[解題・書誌作成担当] 森井弘子