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 日本の高度経済成長を底辺で支えた人々の暮らしぶりと、そこに生きる子どもたちの姿を描き出した物語。鳥越信の紹介で本になった経緯がある。「日本の児童文学に正当的なリアリズムを切り開き、うちたてようという意欲」(横谷輝、1963)を高く評価された。
 中学1年生のタケシが暮らす東京都足立区ミドリ街には中小工場が密集し、無数の煙突から吐き出される煤煙で空はいつもドブネズミ色をしている。タクシー運転手である父親は、不規則な勤務で体の酷使を続け、母親もパートに出ているので、タケシは毎日の夕食作りを担当している。友人たちの境遇も似たりよったりである。父親が行商にいったまま戻らない光男は、盗みに入った鉄工所で逆にいさめられ、そこでアルバイトを始める。成績優秀なるみ江は父親が自殺していて、母親が駅で新聞を売っている。やがて母親が居酒屋で生計をたてる決心をすると、るみ江は、足の悪い弟の良一と一緒に、けんめいに母親を助けて働く。オモチャ工場の下請けをしていた照雄の父親は、仕事がキャンセルされたショックで自殺してしまい、一家は長屋からの立ち退きさえ迫られてしまう。思い余った照雄は大家を包丁で刺してしまう。学校では、「受験戦争」が子どもの心を歪めていた。さらに子どもたちは、数少ない遊び場だった原っぱを、開発のために失う。しかし、原っぱで知り合った盲目の少年一郎との友情を育てつつ、大人への道を模索していく。また、行商を辞めた光男の父親が再就職のために帰ってきたり、失業した健助の父親が、労働者と資本家の関係を学びたいと家を出て行くなど、苦しいなかでも働く誇りと自覚を持とうとする親たち、あるいは、正月用の餅をつけない光男一家のために長屋の住人が差し入れをしたり、タケシの母親が、自分の勤める工場に、照雄の母親を紹介したりなど、互いに支えあう親たちの姿も描き出されており、作者の小暮正夫(1939〜)が労働者に寄せる強い信頼と期待を感じさせる。実際、作者自身も足立区の鉄工所に勤めた経験があり、その時の実感に基づいているものと推測できる。
 久米宏一の絵は動きのあるラフな輪郭線とぬくもりのある質感があり、街の空気や匂い、人々の息づかいまでも伝えている。とくに本扉から口絵、目次まで、画面全体に描かれた絵は、カメラを移動させるように街の全景から近景へと迫り、物語の重要な導入部となっている。ただし、その後に出た「愛蔵版」では、画家が菅輝男に変わり、物語の一部を表紙に描くという形に変わった。
 1963年、サンケイ児童出版文化賞の推薦作品になる。また、同年、NHKのテレビドラマになる(12月28日放映)。

[解題・書誌作成担] 相川美恵子