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 評論家として知られる古田足日(1927〜)の本格的な創作の第1作目。児童文学は、状況の中で成長する子どもを描くべきだという主張を具体化しようと試み、結果、高度経済成長の始まる1960年代初頭の社会で、機械化された労働と規格化された娯楽に甘んじていく人間を捉えたと評価される。
 物語は、現実的な世界と非現実的な世界を行きつ戻りつしながら展開する。まず、現実的な世界ではホージョー市の小学生イシカワ・ススムが「ユーカイ」される。続けて同じ小学校に通うヨシオカ・ユタカが忙しい両親の気を引くために偽誘拐事件を起こす。ユタカはすぐに姿を現し、ユタカらの活躍でススムも救出され、ススム誘拐の犯人として現市長の息子ササキ・タダヒコが逮捕される。これが市長の辞任を招き、新市長にヤマモト・リューイチが就任。ヤマモトは公約どおり、遊園地「ドリーム・ランド」を建設し、「カンヅメ工場」を誘致して、一見豊かな市民生活を実現する。しかし、カンヅメ工場の廃棄物を使って養豚を行うことを奨励する「ブタかい条例」を発したところから、ドリーム・ランドと工場の建設で多くのリベートを取っていたホージョー・デパート社長ハギワラとの癒着が明らかになる。この汚職事件の発覚に大きな貢献をしたのが、ユタカと仲間たちだった。現実世界でこうした一連の事件が起こる一方、ユタカたちは「全日本密輸連合(ゼンミツレン)」や「グループ・カゲ」の暗躍する非現実的な冒険の世界を生きている。
 ジャック・フィニィのSF小説『盗まれた街』をヒントに構想されたということもあり、現実世界と非現実世界が複雑かつ曖昧に交錯していることが、物語構造の特徴である。二重構造は、全体の結構のみならず、個々の用語にも見られ、先にあげた「ゼンミツレン」は「全日本密輸連合」と「全日本未来連合」の両者を示すし、「少年探偵団」は「少年グレン隊」と重なっている。さらにこれは、人間性を疎外される状況にある登場人物たちの心境ともつながる。たとえば、市長やハギワラ社長の戦略に取り込まれた人間は、個性と自由を失った「カゲ」となるのだが、そうした状況を見抜き、打破していくはずのユタカも社長の提唱する「ハミガキ運動」を気持ち良いと感じ、「カゲ」化する側面を持つ。状況に左右され、引き裂かれやすい人間像を示すことで、「ほうっておけば、くるのはいまのつづきだけ」という結末部分の主張が説得力を持ち、強い意志と積極的な行動を読者に促す。
 初出は『秋田魁新報』で、古田と親交のあった画家・久米宏一の依頼で連載を請け負った。久米は画料の点で新聞社と折り合わず、連載時の挿絵は薗田猛が担当するが、改題して単行本化する際は久米が描いている。このとき、登場人物の名をカタカナ表記にして記号性を強めたり、結末部分を一部修正するといった内容の変更もなされた。

[解題・書誌作成担当] 藤本恵