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 本書は佐藤さとる(1928〜)による戦後日本児童文学初の本格的ファンタジー作品として、また現代日本児童文学を生むきっかけになった作品として大きな価値を持つ。第1巻『だれも知らない小さな国』刊行以来完結編の第5巻『小さな国のつづきの話』まで24年を要した。それらを合わせて《コロボックル物語》として読み継がれている。
 小学3年生の「ぼく」は、峠の向こうの小山で三角地を見つける。ぼくはこの小山が気に入ったが、ぼくの家に野菜を売りに来るトマトのおばあさんによれば、ここは鬼門山と呼ばれ、たたりがあるためにめったに人が近寄らないという。ある時、小山で出会った女の子の流した赤い靴の中に「小さいこぼしさま」を見る。成人したぼくは終戦後再び小山を見て、ここにコロボックルと呼ぶこぼしさまたちと、自分たちの「矢じるしの先っぽの国」を作ることを決心する。小屋を作り次第にコロボックルとの交渉も深まる。山もちの「峰のおやじさん」から山を借り受けることができた。小さいときに出会ったあの女の子は幼稚園の先生(おちび先生)になっていた。それからはぼくを何かと手伝って助けてくれることになる。小山を自動車専用道路を走らせる計画が持ち上がる。ぼくは、コロボックルたちが推進派の人たちの耳に囁くことで道路計画は迂回することになる。おちび先生の発案で応募した自動車のペットネームが入選し、その賞金で土地を買うことができた。
 1959年「新日本伝説」と角書され、120部のタイプ印刷で自費出版され、それが講談社の編集者の目にとまり、同年出版された。以後コルボックルシリーズとして続刊。第2巻『豆つぶほどのちいさないぬ』、第3巻『星からおちた小さな人』、第4巻『ふしぎな目をした男の子』、第5巻『小さな国のつづきの話』と続き、1983年に完結されるまで24年の歳月がかかった。挿絵は第1巻、第2巻は若菜珪だったが、第3巻から村上勉に代わった。
 毎日出版文化賞、アンデルセン国内賞、日本児童文学者協会新人賞を受賞。1993年講談社文庫に収録された。この作品のコロボックルの提示を「戦後民主主義が提示してきた理念の具体的な姿」(上野瞭)と見る一方、「戦後民主主義は、戦後連帯民主主義」との見方から「この山はぼくの山だぞ」という「私所有宣言」は「マイホーム的発想」と読む見方(細谷建治)もある。

[解題・書誌作成担当] 大藤幹夫