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 擬人化されたたぬきたちの小学校での日常生活を描いた短編連作集。1950年代当時の小学生の様子をたぬきに擬してユーモアを交えながらいきいきと描いており、その後も読み継がれた。
 「たぬき学校」のポン先生とポン太、ポン吉、タヌ子、タヌ八、ポン子、ポン三郎との日常生活が中心になっている。「しゅくだいの巻」「そうじの巻」「木のぼりの巻」「試験の巻」の4章からなっており、それぞれに3〜5の節がある。「しゅくだいの巻」では、漢字の書き取りが充分にできるのに、同じ漢字を毎日練習しなくてはいけないことに疑問を感じたポン太たちが宿題をボイコットして居残りをさせられるが、その理由を知った先生が反省して、「もっとためになるしゅくだい」を考えることにする。その宿題とは、さまざまなことを発見して短作文を作ることで、今井の綴方教育の実践が垣間見える。また、「そうじの巻」では子どもたちが「協力する」とはどういうことかについて学ぶ。「木のぼりの巻」では、リス先生に木登りを習って、夜の散歩に出かけてポン太の人間の友だちタケオに会いに行く。最終章の「試験の巻」では、子どもたちの考える力を試す試験を行い、全員が合格し、卒業することができる。
 永年教師を勤め、綴方教育に情熱を傾けた今井誉次郎(1906〜1977)が敗戦をくぐり抜けた後の子ども観、教育観が如実に現れた作品である。たぬきの子どもたちは、元気で、いたずらで、失敗を恐れない行動する子どもであり、教師は、子どもたちを受け入れ、子どもたちの潜在能力を活かして育てようとしている。これらは、子どもたちが失敗したり、教師が生徒に自らの過ちを認めて謝ったりする中で醸し出されるユーモアの中で描かれている。ユーモアは子どもと大人の論理の対決にも見られ、子どもの視点が耐えず保証されている。また、作品は短い文章で会話と行動の描写が多用され、読みやすい。それゆえ、多くの子どもたちに読み継がれた作品となった。
 初出は『日本の子ども』で、助詞や文の変更・削除を除いてほぼ連載のまま単行本になっているが、最終節「山いもほり」のみは、書き下ろしである。安泰の挿絵は、単純な線で丸みを帯びているため、たぬきの子どもたちの子どもらしい面が強調された親しみやすい絵になっている。雑誌と本の挿絵は同じ画家であるが、すべて描き直されている。
 出版された当初、教師や児童文学者たちは教師像や子ども像に反発を感じ、文学性の弱さを指摘して否定的であった。しかし、子どもが読み続けたことから大人が評価を変えざるを得なくなった。作品は、ひとみ座によって人形劇化されたり、童心社から紙芝居(和田義三絵、1964)としても出版された。

[解題・書誌作成担当] 藤本芳則