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 農村に生きる子どもたちを、リアリズムで描いた長編。作品の背後には、住井すゑ(1902〜1997)の農村生活がある。従来の童話とは一線を画した児童文学を提示した点に意義がある。父を戦争でなくし、母もやがて病気で亡くした兄弟姉妹たちが、自分たちの力で懸命に明日を生きようとする姿からは、戦後社会における子どもへの期待がうかがえる。
 小学校6年のえつ子の家は農家である。父は戦死して、母親と祖母と、二人の兄とまだ7歳の妹の合計6人家族。貧しいながらも平穏に暮らしていたが、母親が農作業中の怪我から破傷風にかかり死んでしまう。残された子どもたちは、自分たちで暮らしていく必要に迫られ、長兄を中心に農業を続けることにし、ときには野菜を売りにも出かける。農業をするなかで、子どもたちには、米の供出など当時の食料政策や貧富の差などへの批判が芽生える。米の供出の不公平な割り当てに不満をもちながらも、えつ子の兄は、誰よりも早く供出し、新聞に取り上げられる。その長兄が、中学卒業後、東京へ働きに出ると、村人たちは、新聞にまでとりあげられた模範少年が、農業を続けようとしないのは、村の恥と非難する。しかし、新聞社の地方巡回映画のニュース映画で、都会に働く人々を紹介した中に、偶然長兄が映し出されると、村人たちは思わず拍手する。
 作者の農村生活に裏打ちされた描写がリアリティを増している。米の供出制度への批判が表面に出てくるが、それよりは、村の因循な人間関係が強く印象づけられる。結末は、若い力が、新しい日本を築いていくことを語っている。このような明るい未来を思わせる結末は、この作品だけではなく、当時の児童文学の一般的傾向であった。生活は苦しかったが、未来への期待が可能であった時代だったというべきであろう。都会や町の子どもの登場する児童文学が多いなかで、農村の子どもたちを描いた点も注目される。
 新潮社の「少年長編小説」シリーズの1冊。ジャケットの絵は本文挿絵とはことなり、7歳の児童が描いたものが使用されている。
 発表当時、好意的な評が多かったが、ストーリー展開やディテイルに不備があるとして、「ほんとうの農村のすがた、ほんとうの子どもの心理は、えがかれていない」(中村新太郎、1954.10)との批評もあった。
 第8回毎日出版文化賞を受賞。劇団民芸で映画化されたほか、ラジオでも放送された。1955年新潮社の「小説文庫」に収められ、1965年には新潮文庫の1冊となった。

[解題・書誌作成担当] 藤本芳則