表紙とジャケット 本文 挿絵

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 太平洋戦争中の思想統制の中で、壺井栄(1899〜1967)特有の方法で抵抗を示した作品集。本書には彼女の児童文学最初の作品といわれる「まつりご」は収録されていないが、1941年から1943年にかけて書かれた短編8編が収録されている。
 著者のふるさと小豆島を舞台としていると思われる表題作「夕顔の言葉」は、高等科1年の主人公ヤス子の日常生活を描いた作品である。兄と母との貧しい母子家庭であるヤス子の家は雑貨商をしていたが、大工の兄が出征したので母は魚の行商をはじめる。勉強ができるヤス子は、女子師範に入って先生になる夢をもっているが、早く働いて母を助けたいとも思っている。出征前に兄がくれた、夕顔と大輪の朝顔の種をなくしたヤス子に、受け持ちの先生が、種をくれる。立派に咲いた夕顔の花を押し花にして戦地の兄に送るが、兄は戦死してしまう。「思うさま泣いて、あとは泣かんようにせんと、一郎も浮かばれんでな」という母に、ヤス子は夢を捨てて工場で働こうかと言うが、兄の夢でもあったのだからと諭される。ヤス子は、花を終わらせた夕顔の蔓に沢山の種がついているのを見て「花が散ったと淋しがる人の心に、無言の言葉をなげかけてゐるやう」に感じる。「餓鬼の飯」のように少し前の時代の戦時色のない作品もあるが、収録作品の大部分は、戦時下に生きる庶民の少女の生活を、戦争とかかわらせながら独特の語り口で描いている。
 初版は奥付には1万部発行されたとある。1971年ほるぷ出版より復刻版が出た。

[解題・書誌作成担当] 畠山兆子