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 室生犀星(1889〜1962)が残した唯一の少年詩集である。全体を春夏秋冬の4部に構成し、それぞれの部の冒頭に「……の顔」という作品を置いている。4部のうち夏がいちばん作品数が多くて27編、逆にいちばん少ないのが秋(11編)である。
 「動物詩集」と言いながら、いちばん多く取りあげられているのは小さな虫たちである。両生類や爬虫類を含めると、歌われている虫類は全体の約半数の35種を数える。これに魚類・鳥類を加えると60種となり、全体の約90%を占める。つまり、犀星はわれわれの日常生活に関わりの深い小動物を取り上げ、生きものたちの生命を歌おうとした。その奥には、「生きものの/いのちをとらば/生きものはかなしかるらん。/生きものをかなしがらすな。/生きもののいのちをとるな。」と歌った序詩からも分かるように、すべての生きものの生命を尊重しようというメッセージが籠められていたと思われる。一億総玉砕が叫ばれ、人の命が軽んじられていたこの時期だけに、犀星のこうしたメッセージはきわめて貴重なものであったと言えよう。
 1940年代は童謡のような「歌う詩」に対して「読み味わう詩」が浮上してきた時代であり、戦局が厳しくなってきていたにもかかわらず、与田凖一『山羊とお皿』(1940)、高村光太郎『をぢさんの詩』(1943)、小林純一『太鼓が鳴る鳴る』(1943)などすぐれた少年詩集が刊行された。『動物詩集』もそのひとつであるが、近代詩の代表的な詩人であり、かつ作家としても活躍していた犀星が、この時期に子どもたちに向けてこうした詩集を編んだことは注目に値する。
 前書きには「これらの詩は四、五篇をのぞいては、みんなあたらしく書いたものです。」とあるが、三木サニアによれば「当時の児童雑誌に発表された詩十七篇を除き、他はほとんど詩集編集時に創作された」ものである(「室生犀星の児童文学(10)―『動物詩集』の世界―」『方位』第18号、1995年)。その17編中、12編は雑誌『少国民の友』に発表されたとしており、今回の細目作成に際してはそのうち10編について確認することができた。『少国民の友』掲載以外の5編について、新保千代子の解説(『日本児童文学名著事典』1983年)では初出誌として『文芸』『むらさき』等の誌名が挙げられているが、いずれも確認ができていない。奥付の記載によると初版の出版部数は6万部とある。
 1974年ほるぷ出版から復刻版が出た。

[解題・書誌作成担当] 畑中圭一