函と表紙 本文 挿絵

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 岡本良雄(1913-1963)の第一童話集。前後して初の童話集を出版した下畑卓とは、同人誌『新児童文学』で共に活躍し関西出身の新人としてしばしば並び称せられたが、学校生活を描くことが多い下畑に対して、「ふくろふチーム敗戦記」「友吉と芋」のように働く人々や労働の場を作品化した点に岡本の特徴がある。表題作では軍隊生活を取り上げる。従軍した主人公が敵前上陸した場所で「日本の朝顔」を咲かせようとする結末は、戦時下の植民地主義を色濃く反映している。反面、いかめしい兵営の一隅に咲く朝顔や、花に託された友との思い出に、言論統制下での精一杯の抵抗を見出すことも可能であろう。
 槙本楠郎の理論に影響を受け、一方で小川未明や坪田譲治に私淑した岡本は、創作のなかで社会性と物語性の融合を追求した。生活童話の形骸化・平板化が指摘されていた当時にあって、リアリズムの系譜に属しながらも作品が高い完成度を持つのはそれゆえであろう。作品を貫くヒューマニズムはもちろんのこと、生き生きとした会話、ユーモラスな語り口などは、この時期に多数出版された新人の童話集のなかでも際立っており、収録作のうち、「ふくろふチーム敗戦記」「ある町の話」「安治川つ子」は戦後まもなく刊行された童話集『ふくろふチーム』(瑤林社、1946)に再録された。その後、童話集『ふくろうチーム』(西荻書店、1951)の時点で、作品はかなり改稿されている。
 初版5000部、第2版3000部、第3版5000部と第3版奥付にあり、新人の創作童話集としてはかなりの売れ行きであったと推測される。同時代評としては、塚原健二郎「童話文学の整備のために」(『少国民文化』1943.01)が単行本に言及し、テーマの明確さを指摘している。また、早大童話会時代からの友人・水藤春夫が「新人とその作品」(『新児童文化』第4冊、1942.05)のなかで収録作のいくつかに触れ、子どもへの愛情とともに都会的な良識や感覚に新しさを見出し、「旧い殻にとぢこもつた童話壇に対する反抗状」と評価している。

[解題・書誌作成担当] 酒井晶代