函と表紙 本文 挿絵

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 「咲きだす少年群」は、『満州日日新聞』(1939年)夕刊に、「もんくーふおん」(蒙古風の中国音、3月中旬に吹き出す「大陸の春の魁」と呼ばれる大風)の題で40回にわたって連載された、石森延男(1897〜1987)の最初の長編小説であり出世作である。大連弥生高等女学校の教職にあった1938年2月に、『満州日日新聞』から「満州の子どもを主題としたものを書いてほしい」と頼まれ書かれたという。連載は好評だったが、1939年3月、文部省図書局の図書監修官として東京へ帰る事になり終わりとなる。帰国後「咲きだす少年群」と改題して新潮社より出版。第三回新潮賞を受賞した。
 物語の舞台は、日中戦争が始まった頃の満州と呼ばれた地域で、白系ロシア人、中国人、蒙古人、日本人の子どもたちが、生活習慣や気質の違いを超えて友情を育んでいく物語が、姉の結婚を絡めて描かれている。姉の許婚者の戦死や身近の人の応召、孤児になった中国人の兄妹や、姉の友人が語る戦時下の結婚観などは、執筆された当時の満州社会を反映している。満州の自然や人々の生活は異国情緒にとみ、そこに描かれた戦争や命についての考え方に、石森延男独自の人道主義的思想と、その限界を見ることが出来る。
 なお、本書の小型版(18×12.7p)があり、その13版が確認されている。

[解題・書誌作成担当] 畠山兆子