函と表紙 本文

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 初山滋(1897〜1973)書き下ろしの絵本。戦時色が強まる世相の中でこうしたナンセンス絵本が出版されたところが注目される。
 画面はきわめて装飾的で、大人が見ても飽きることがない。絵と文字とカラーのバックが、感覚的にバランスよく配置されており、一枚一枚取り出しても鑑賞に耐えうる。内容は、いつもお腹を空かして、食べることばかり考えているブタのトンちゃんを軸に展開。トンちゃんは、ゴミをあさる、しゃぼんだまの水を飲み干す。ボールを飲み込んだりおでんをお腹いっぱい食べたり、お菓子の山に寝ころんだり。そんな食いしん坊のトンちゃんの日常が、おもしろおかしく描かれている。一人の女の子とトンちゃんの対話や独白が、詩的な言葉とで綴られるが、最後トンちゃんは、トンカツやに売られていく。なんとも唐突な結末だが、そこに初山の虚無的な視点が反映されていることはまちがいない。
 同じ作者が、その3年前に『東京朝日新聞』に連載した絵物語「ペコポンポン」(1934)でも、空腹の主人公が、最後自らの胃袋を撃ち抜こうとする。子どもむけの絵物語としては、ともに異質の展開をもつ。初山は孤高の絵本作家、挿絵画家として知られる。その立場や人生感を如実に示した作品と言えるだろう。1974年ほるぷ出版から復刻版が出た。

[解題・書誌作成担当] 竹内長武