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 ノーベル賞作家・川端康成(1899〜1972)の子ども向け作品は2種類あるとされる。一つは「十六歳の日記」のように子どもにも読める作品群で、もう一つは少年少女小説として意識して執筆されたもので、本書はそれにあたる。後者に属する作品を、小林芳仁は「約三十余編にも及んでいる」(『川端康成の世界』双文社出版)として、『少女世界』に(1927.2)に発表された「薔薇の幽霊」をその初めとしている。なぜ少年少女小説を執筆したかについては、川端康成自身が「自分の芸術小説の不健康を癒す一歩となりはしないかとも思ふからである。」(『新潮』1933.7)と述べており、少女小説が多く執筆されていることと関連して興味深い。
『級長の探偵』収録作品9編のうち、1編が『少年倶楽部』に、他の8編は『少女倶楽部』に、1929年から1936年にかけて発表されたものである。表題作「級長の探偵」は、収録中唯一の少年向け作品になっている。不意の事故で盲目になった清一は、学校に通えなくなったが、障害を乗り越えようと一生懸命努力をする。それを知った級長の文雄が学校で学んだ事を毎日、清一に教える。ある日、学校の実験室の機械が壊れたり、盗まれたりする。文雄は清一を犯人と疑うが犯人は校長先生で、勉強熱心な文雄を助けるためであったことが分かり、二人の友情は壊れることなく続く。なお、本書の復刻(ほるぷ出版、1974年)の出版依頼に川端は「いやです。」と返事し、「あなたもあの内容をいいとは思はないでしょう。」(『名著複刻日本児童文学館第二集解説書』)と述べたと伝えられている点は留意する必要がある。1974年ほるぷ出版から復刻版が出た。

[解題・書誌作成担当] 畠山兆子