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 本書は、1937年8月に山本有三編「日本少国民文庫」の第5巻として刊行された吉野源三郎(1899〜1981)作の児童向け長編小説である。本書をもって叢書「日本少国民文庫」は完結したが、叢書の最終配本を締めくくるにふさわしく、自由や理想・ヒューマニズムを基底に高い倫理意識を扱った作品として、日本の児童文学における倫理小説の草分けであると同時に白眉となった。時代の記念碑的出版物としてまた現在にまで読み継がれる良心的な物語として今なお高い評価を受けている。
 物語は、コペル君こと中学二年生の本田純一が、その叔父をよきアドヴァイザーとしながら、級友たちとの事件や交流を通して精神的に成長していく様子を描いたもので、社会の仕組みや人間についての本質的な問題を少年の目から真摯に問いかけた内容。
 当初は山本有三が執筆する予定だったところ病躯のため果たせず、代わって吉野が筆をとることになったとされる。初版では山本有三との共著となっているが、戦後の1948年に「改訂・日本少国民文庫」の一冊として本書が刊行されたときに吉野源三郎の単著となった。また同年11月には、大木直太郎による脚色で七景ものの『(脚本)君たちはどう生きるか―コペル君とその仲間―』(東京生活社)が刊行されている。
 以後、1948年版の内容に少し手を加えた形で1956年「新編・日本少国民文庫」の一冊として再刊、さらに1967年『ジュニア版吉野源三郎全集』(ポプラ社)第1巻に収録され、ここでも一部改稿されている。1982年、新潮社版(1937年)を底本として岩波文庫に本作が収められた。

[解題・書誌作成担当] 竹内長武