函と表紙 本文 挿絵

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 集団主義童話を提唱した塚原健二郎(1895-1965)の最初の童話集。小説家として出発した塚原が童話作家として活発に活動をしはじめる1926年から1937年までの作品の中、14作品が選ばれ収録されている。これらの作品は大きく3つに分けられる。「田舎へ」「七階の子供たち」「お庭におりたヒコーキ」「正吉のお面」「東京の子」「うりもの屋ごつこ」などの子ども同士の交流や日常の場面を微笑ましく描いた作品群。「町に出た鳩」「ポストから出たお金」「ひれの生えた話」「古いお靴」等の人間と動物や人形などとのちょっとした不思議な交流を描いた作品群、そして「二人の爺さん」「裏街の人形使」「蜂の王さま」「酒場のケルト」等の深い心の繋がりや絆を描いた作品群である。
 塚原は「赤い鳥」に22編の作品を発表しているが、本作品集にはその中から5編が収録されている。うち2編が改題されているが、内容の加筆は見当たらない。本作品集の表題になっている「七階の子供たち」は大人と子どもの対立や子ども同士の自主的な連帯がみられ、1933年9月に発表した「集団主義童話の提唱」(都新聞)に先駆けた作品と言える。塚原のもう一つの特徴として、作品の舞台や主人公の名前などの設定における無国籍性が挙げられる。
 「田舎へ」「七階の子供たち」は、家柄や貧富の差を越えてなんの先入観もない純粋な子ども同士の自主的な助け合いが描かれており、塚原健二郎の理想の子ども像がうかがえる。また放課後、家の仕事を手伝う子どもたちの姿には、当時の子どもの生活が反映されている。また人間同士の心の断絶、利己主義、孤独感等も作品からうかがうことができる。さらに第三群に挙げた心の絆やひたむきさを描いた作品等は、現代社会では薄れてしまった大切なものを感じさせる。本書の前書きと後書きには、常に子ども側に立ち、夢と豊かな心を児童文学を通して送りたいと願っていた作者の思いがうかがえる。初期の物語風童心主義作品から、リアリズム作品に至るまでの塚原の変遷を知るうえで重要な作品集である。1971年ほるぷ出版から復刻版が出た。

[解題・書誌作成担当] 畠山兆子