表紙とジャケット 本文 挿絵

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 少年に人気を博した江戸川乱歩(1894〜1965)の子ども向け探偵小説。
 初出は雑誌『少年倶楽部』(1936.1〜12)で、連載終了と同時の12月に大日本雄弁会講談社より単行本となった。雑誌連載の終了と同時に単行本が刊行されているところに、本作が読者によって高い支持を得ていたことをうかがい知ることができる。
 小説第一作「二銭銅貨」(『新青年』1923.4)が森下雨村に認められ、小酒井不木の讃辞とともに文壇デビューを果たした乱歩は、やがて雨村や不木らも取り組んだ少年探偵が活躍する作品に取り組むようになる。初めての子ども向け創作となるのが本作「怪人二十面相」であり、この作品は小林秀恒の挿画とともに当時の子どもたちに圧倒的な支持をもって迎えられた。
 物語は、その頃東京中の話題を独占し、人々を恐怖におとし入れていた「怪人二十面相」と、名探偵・明智小五郎およびその助手・小林芳雄少年との一騎打ちを描いたもの。変装が得意で二十の異なった顔を持ち、宝石や美術品だけを狙い決して人を傷つけることはないという特異な怪人二十面相は、大実業家・羽柴家蔵のロマノフ王家の大金剛石を狙う。ここでは二十面相によって幽閉されてしまう小林少年だが、やがて羽柴家の息子・壮二らとともに結成した少年探偵団の活躍によって、二十面相を捕らえるまでを描く。明智探偵を含め、両者の切羽詰まる対決は、当時の少年たちを熱狂の渦に巻き込んだ。
 その後、小林少年が活躍する作品としては「少年探偵団」(1937.1〜12)「妖怪博士」(1938.1〜12、いずれも『少年倶楽部』連載)と書き継がれるが、いわゆる「二十面相もの」が多く書かれるようになったのは戦後である。1954年12月には、大人向きではあったが本作を原作とする映画が松竹から封切られ(脚色:小川正、監督:弓削進、第1〜3部構成)、反響を呼んだという。1970年講談社より復刻版が出た。

[解題・書誌作成担当] 竹内長武