函と表紙 本文 挿絵

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 1935年1月より刊行のはじまった「日本少国民文庫」の1冊。本書は叢書の第12巻であるが第1回配本として同年に刊行されたもので、叢書は以後基本的に月に1冊のペースで刊行を続けながら、1937年8月『君たちはどう生きるか』を出し計16冊で完結。戦時下の児童出版史に今なお輝かしい光芒を放つ本叢書は、「時代の抵抗精神を象徴」(菅忠道)するとともに、「良心的で文化性の高い、しかも全体として格調の高い文体、感銘にあふれた内容をもった企画」(鳥越信)と言われ、高い評価を得ている。
 表題と同名の詩「心に太陽を持て」は、ドイツの詩人ツェザール・フライシュレンのもの。もとは、叢書の編集に携わった高橋健二が紹介したものを山本有三(1887〜1974)自ら訳し直したもので、原詩の第二節「くちびるに歌を持て」が巻頭に使われていることをも考えあわせると、有三が当時いかにこの詩に共感したかがうかがえる。表題作のほか、「ミレーの発奮」「フリートリヒ大王と風車小屋」「パナマ運河物語」などを収録。「胸にひびく話・二十篇」の副題が示すように、世界中から集めた感動的な話を精選した逸話集である。執筆は、有三だけでなく叢書に関わった編集委員が手分けしたとされるが、話材の選択・吟味や最終的な原稿のチェック等は有三が全責任を持って行ったことで、有三の編著となっている。
 なお、戦時下の1942年に島崎藤村による編集で「改訂・日本少国民文庫」計12冊を出したが、本書『心に太陽を持て』は第10巻として予定広告されるも、未刊に終わった。

[解題・書誌作成担当] 竹内長武