函と表紙 本文 挿絵

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 「冒険ダン吉」は、もともと『少年倶楽部』に1933年6月より39年7月まで連載された島田啓三(1900-1973)による絵物語である。夢の中で南洋の島に漂流した少年が、現地人の王様として君臨する物語が描かれる。牧歌的な描写にユートピアの建設を謳ったものという受け取り方の一方、戦時下での南進論を体現していたと評価される側面もある。
 単行本は、『冒険ダン吉』以下、『冒険ダン吉大遠征』(1935)『冒険ダン吉無敵軍』(1938)が刊行された。『冒険ダン吉』はシリーズの第一単行本。この時期には、すでに田河水泡の『のらくろ上等兵』が刊行されており、造本としては、それを後追いする形となっている。函付きでオール2色刷りの出版は、まだまだ単行本出版の少ない当時の漫画状況のなかで目立った。
 内容は『少年倶楽部』の連載をもとにして、新しくコマを追加して再構成している。文章にも大幅な改変がみられ、新たな描き直しとみた方が無理がない。
 本作品は終始、絵物語形式で描かれている。その点、当時の視覚的な物語文化に、コマ形式の漫画とコマの横に文章を添える絵物語形式とが、混在していた時代相をよく現している。さかのぼってみると、1920年代には宮尾しげをを中心に、絵物語の形式が大流行している。それが田河水泡の「のらくろ」の登場により、吹き出しを用いた漫画にとって変わられていく。しかし、『冒険ダン吉』の刊行された時代、1930年代から40年代の初期にかけては、いまだ絵物語という形式が、漫画と同時並行の形で生き残っていたわけだ。
 もともとは『少年倶楽部』で人気を得た作品であり、やはり同誌連載の田河水泡「のらくろ」とともに、戦前の漫画、絵物語の代表作とみなされる。1970年講談社から復刻版が出た。

[解題・書誌作成担当] 竹内長武