表紙と函 本文 挿絵

(画像をクリックすると大きな画像をご覧いただけます)
 本書は、良寛没後百年を記念して書かれた児童向きの伝記。
 相馬御風(1883-1950)は晩年の30年間を良寛研究に費やした。良寛についての子ども向けの本も『良寛坊物語』(春秋社、1928)、『良寛と蕩児』(実業之日本社、1931)、『一茶と良寛』(小学館、1941)などがあげられ、大人向けも含めると相当な数に及ぶ。
 他作家による児童むきの良寛伝記はすでに存在していた。御風は犬やこどもたちと良寛との逸話をわかりやすく、興味深くまとめている。たとえば「竹の子のびろ」では縁や屋根につかえて伸びることのできない竹の子のために穴を開けるという「お話」を紹介し、さらに同題名の童謡でも「竹の子のびろ。天までのびろ。まっすぐにのびろ。まがらずのびろ。」と元気に明るく歌い上げ、自然に従う原理を説く。なかでも子どもたちと手まり遊びや鬼ごっこで楽しく触れ合った姿を、当時のよき田園風景の中で描いているのが印象的。これらの37編の逸話と、その逸話を元に創作した12編の童謡、また良寛自身の短歌を添えて本書は構成されている。
 後、本書の続編となった『続良寛さま』(実業之日本社、1935)を出版し、そこでは逸話を中心に63編を収録した。
 本書の装幀・挿絵は郷倉千靭。郷倉は御風の著書『御風歌集』(春秋社、1926)『雪中佳日』(桜井書店、1943)、さらに前出の『続良寛さま』『良寛と蕩児』や『西行さま』(1934)『一茶さん』(1932)などの児童書(すべて実業之日本社)の装幀を手がけた。殊に本書の口絵は庵の中の良寛の姿が趣きある色調で丁寧で繊細に描かれている墨絵が圧巻。9枚の挿絵の方は「舟人」とサインをいれ、装丁とはまた違った魅力を醸し出している。
 本書は戦前まで49版を重ねた(ただし第49版には口絵と挿絵がなく、また奥付に3000部発行とある)。

[解題・書誌作成担当] 森井弘子