函と表紙 本文 挿絵

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 表題作「春」ほかを収めた短編集。著者・竹久夢二(1884〜1934)は「黒猫を抱く女」で知られる抒情画や、「宵待草」(「待てど暮らせどこぬひとを…」)で一世を風靡したが、子ども向きの雑誌に挿絵・童謡・絵物語・童話を多く残した。本書はそうした雑誌に発表したもののうち童話18編と戯曲1編を収め、夢二の世界をみせている。
 これらの作品に登場する主人公のうち少年と少女はほぼ相半ばしているが、やはり少女ものに特色が出ていて、たとえば「先生の顔」での葉子は、絵を描くのが好きで授業中に先生の似顔絵を描いていたのが見つかり、先生が怒っているのではないかと悩む。やがて先生からやさしい手紙をもらって心が和む話で、話のおもしろさよりもナイーブな少女の心を描くところに特色がある。また、たとえば「朝」の中の「…お眼がさめたら何処いきやる。/大阪天満の橋の下/千石船に帆をあげて。/こつけ、こつけ、あどう。」といったような作品中に挿入されたわらべ唄、ほかには、一色だが、本書各作品の冒頭に1ページの挿絵があり、ここにも夢二の特色を見ることができる。
 1974年ほるぷ出版より復刻版が出た。

[解題・書誌作成担当] 竹内長武