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 新劇運動の基礎となった「築地小劇場」を創設した小山内薫(1881〜1928)の唯一の童話劇集で、大正期<童話劇>を代表する一冊が本書である。
 表題作「三つの願ひ」は西洋の昔話の脚本化で、樵夫が仙女を助けたお礼に3つの願いがかなうことになるが、無駄に使ってしまう。その他、アンデルセンの「火打ち石」の脚本化「ほくち箱」、「ニュレムベレヒの人形」という西洋のオペラを書き直した「人形」、グリム童話「漁師とおかみさん」を脚本化した「イルゼベルの望み」、「赤頭巾」と似た「オオカミの教訓」、スチュアアト・オオカアの翻訳「そら豆の煮えるまで」の6編である。すべて海外作品の翻訳・翻案で、創作作品は含まれていない。これらの作品の中で、「人形」が最も早い1912年に家庭劇協会で上演され、1922年には「人形」「三つの願ひ」「ほくち箱」が小寿々女座で、1924年には築地小劇場で上演された。小山内は、これらの脚本を「子どもに見せる児童劇」(「小引」)として強く意識していた。また「そら豆が煮えるまで」について「教訓や風刺を少しも強いる態度がない。しかも教訓や風刺が眼前として控えている。そこにこの作の児童劇としての価値があるのです。」(「『そら豆が煮えるまで』と『遠くの羊飼』とに就いて」1924)と言っているように、楽しむことの大切さと内に潜む教訓性の重要性を意識していた。
 冨田博之は、「人形」を「明治期の、多分に封建的な教訓劇としての『お伽芝居』から、大正期の市民的なドラマとしての『童話劇』へと発展していく、その先ぶれのような位置をもつ作品」(『日本児童演劇史』)と評価しており、これは本書全体の評価につながっている。1974年ほるぷ出版から復刻版が出た。

[解題・書誌作成担当] 畠山兆子