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 大正時代の説話再話を代表する短編集。『世界童話宝玉集』(1919)に続いて刊行された美本で、楠山正雄(1884-1950)の代表作の一つである。下巻は1922年4月に発行された。
 上巻に収められている作品の材源は、日本書紀・古事記・古語拾遺・伝説、下巻は、お伽草子・今昔物語・宇治拾遺物語・伝説に求め、「なるべく普遍性をもった」説話を選び出し「できるだけ自由な、新しい表現を与へる」(「おぼえがき」)ことを意識しながら書いたと記されている。文章は「そのくらやみは、目も鼻もない、ぶよぶよとした大きなかたまりのまま、とろりとろりと、油が浮いているやうに空の中に浮いていました」など、易しくイメージが沸きやすいものとなっている。
 瀬田貞二は『日本児童文学大系(11)』(1978)において、先行した巖谷小波などの幅広い説話再録や部類分けを参考にしつつ、そこに文芸性を加えて「従来にみない変化ある集録として成功」したアンソロジーと高く評価し、楠山自身も本書について、日本人の誰もが子どもの頃から聞いて知っている話を自身の心持でとりまとめたものにすぎないが、これだけの中味と形をととのえた説話集さえまだなかったことを思えば自分の仕事も無駄ではないと思われる、と上巻の「おぼえがき」で述べている。
 所見の第15版では表紙と口絵に異同があり、第17版表紙は初版の口絵、口絵は初版の草薙剣の挿絵が使われている。

[解題・書誌作成担当] 畠山兆子