函と表紙 本文 挿絵

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 浜田広介(1893〜1973)にとって第一単行本にあたる。教訓よりも詩情と人生の思いを描くことを意図した童話と童謡を収めたもので、大正童話童謡ブームの一端をになった書物である。本書に収められた作品のうち「椋鳥の夢」は、椋鳥の子の母鳥は死んでいるのだが、それを知らず夢の中で母鳥に会う話、「花びらの旅」は桜の花びらを主人公にした話で、枝から離れた花びらが川から海に流れて一生を綴じる話である。ともに広介の代表作とされただけでなく、日本の幼年童話の代表作と目されてきた。
 収録作品は広介が一時期編集に携わった『良友』掲載作品を中心としているが、彼はその発行元・コドモ社を1920年末に退社、1921年「郷里の先輩田制佐重の紹介で辻本経蔵を知り、童話集出版を懇請され」(浜田留美)、本書の出版となった。その辻本経蔵が本書の版元・新生社主である。また川上四郎は『良友』の表紙絵などを担当していて、広介とは既知の仲だった。
 本書は美本に属するもので、その造本から判断するに、幼い子ではなくかなり年齢の高い層を読者対象とした本と思われる。「自序」の副題に「まづ第一集に」とあるのは、本書が「広介童話全集」の第一集として出版されたためである。本書奥付裏に「広介童話全集」の全十集の広告があり、そうした企画のもとに本書が世に出たと思われる。ただしこの全集は第一集のみで終わった。
 当時評には『都新聞』(1921年9月6日)に上泉秀信の「児童の読書熱と童話―「椋鳥の夢」の作者に―」という紹介文がある。初版は2000部。1969年日本近代文学館から復刻版が出た。

[解題・書誌作成担当] 竹内長武