表紙とジャケット 本文 挿絵

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 小川未明(1882-1961)の代表作「赤い蝋燭と人魚」を収める童話集である。
 1918年、鈴木三重吉の『赤い鳥』創刊をきっかけとする新しい児童文学の隆盛のなかで、未明は活発に童話を執筆し始める。一方、1920年には日本社会主義同盟の創立発起人に名前を連ねるなど、社会主義的思想に接近して小説を執筆した時期でもあった。本書はそうした背景のもとに世に送られた。
 書下ろしと考えられる「序」は、未明の童話観を知る上で貴重なものである。ここでは、芸術としての童話が明確に意識されている。表題作「赤い蝋燭と人魚」は、そうした童話観を示す代表作であるが、新聞連載時には発行停止の巻き添えにあい、完全な形で作品が読めたのはこの童話集が最初であった。人魚の怒りが人間社会を滅ぼす幻想的なこの作品は、1960年代初頭の童話伝統批判の中でアンデルセンの「人魚姫」と比較され、理不尽で想像力の広がりのない未明童話の典型として、厳しい批判の対象とされた。しかし、1960年代後半から70年代にかけての再評価を経て、今日でも読みつがれる作品となっている。
 本書収録作品の何点かは大人むきの新聞や雑誌に発表されたもので、本書は大人を意識した造本となっている。童心をもつ大人にも訴えたいとする、当時の支配的だった童話観を示していると考えることもできる。
1970年、日本近代文学館より「名著復刻全集 近代文学館」の一冊として復刻版が出た。

[解題・書誌作成担当] 畠山兆子