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 西條八十(1892〜1970)の最初の童謡集で、1918年夏から1920年までに『赤い鳥』その他の雑誌・新聞に発表した59編の童謡を収めており、ほぼ創作の順序に配列されている。『赤い鳥』に発表された作品はすべて収録され、計34編を数える。ただし、序に述べられているように、冒頭の「薔薇」から「小人の地獄」までの7編と「たそがれ」、計8編は2年前(1919)の詩集『砂金』に既に採録されており、この童謡集には再掲となる。同様に「きりぎりす」「寂しい旅人」の2編は小曲集『静かなる眉』(1920)からの再掲となる。
 フランス・サンボリスムの影響を受けて象徴詩人として出発した西條八十は、童謡についても「象徴詩としての童謡」を主張し、「かなりや」「薔薇」「あしのうら」などの作品にそれが具現されている。また、序で「現在の私の使命は、静かな情緒の謡によつて、高貴なる幻想、即ち叡智想像を世の児童等の胸に植ゑつけることである」と述べたように、幻想や奥深い想像の世界で子どもたちが遊ぶことの重要性を正しく理解していたものと思われる。こうして八十は、同時代の白秋や雨情とは対照的に、知的なひらめきとモダンで都会的なイメージの豊かな童謡の世界を構築した。この『鸚鵡と時計』はそうした傾向が最も明瞭に現れた童謡集である。
 なお7ヶ月後に刊行された改訂三版では新たに作品9編(「親子の針」「祖母と鸛」「海辺で」「お清書」「たんぽぽ」「かくれんぼ」「日向葵」「水たまり」「人形の足」)を加え、22ページ増頁されている。また表紙は1,4(表・裏)共に全面的に変更され、表紙1は果物を盛りつけた大型のグラスを描いた絵となり、表紙4は右上端に振り子時計が描かれている。そのほか、ノンブルの位置が各頁の下欄左右から上欄中央に変わっている。

[解題・書誌作成担当] 畑中圭一