函と表紙 本文

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 吉屋信子(1896〜1973)にとって少女小説の単行本一作目にあたる。花にちなんだタイトルがつけられた少女小説の連作短編で、従来の教訓的な少女小説とは全く異なり、女学校やその寄宿舎などを舞台に、少女同士の友情、教師へのあこがれ、同性愛的な心情、母娘の情愛などを修飾に満ちた美文調の文体で描いているところに特徴がある。
 『少女画報』に投稿した「鈴蘭」が採用されて1918年7月号に掲載され、主筆の和田古江に続編を依頼されて「花物語」の連載が開始された。その後1924年まで『少女画報』に連載、1925年7月から1926年3月まで『少女倶楽部』に掲載された。
 第1作の「鈴蘭」は、7人の少女たちが集ってなつかしい物語を語り合うという設定の中、笹島ふさ子という少女が語る物語で、音楽教師をしていた母親が毎日生徒が帰ったあとで講堂からピアノの音が聞こえてくるのを不審に思い、娘のふさ子と一緒に講堂の外からのぞいてみると、ブロンドの髪の少女がピアノを弾いていた。その少女は、ピアノを寄付した婦人の忘れ形見であり、後日、合い鍵と鈴蘭と手紙がピアノの上に置かれていたという話である。
 当時の文壇での評価は高くなかったが、少女読者に熱狂的に迎えられ、後の少女小説に大きな影響を与えた作品で、今では日本の少女小説の代表的な作品とされている。それまでの良妻賢母主義に根ざした少女小説ではなく、少女独自の感性や心理、考え方そのものに価値を見出しているところが、1970年代後半になってフェミニズムの観点などから再評価されるようになった。
 「花物語」シリーズは、まず本書を第1巻とする全3巻本の洛陽堂版(1920〜1921)が出て、次いで確認できているのは交蘭社版全5巻(1924〜1926)である。第1巻は両者ともに同一作品20編を収めているが、紙型は変わっている。なおこの間に民友社版が存在したとする説があるが確認できていない。そのあとも出版社を替えながら多くの版が出た。また所見の第7版は表紙は布製赤色となり、またデザインも少し変えられている。1974年ほるぷ出版から復刻版が出た。

[解題・書誌作成担当] 畠山兆子