函と表紙 本文 挿絵

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 子どもに読物の楽しさを見せた宇野浩二(1891〜1961)の童話集。1910年代から20年代初めにかけて多くの近代文学作家が童話や童謡に手を染めた。宇野浩二もその一人で、『良友』や『少女の友』などに多くの童話を寄稿した。それらは売文を目的としていたけれども、本書に収めた「揺籃の唄の思ひ出」などは、主人公の強烈な個性と小気味よい文体で、読者に喜ばれ、本書のほかにもたびたび作品集に収められ、この時代を代表する作品の一つとなった。
 本書には18編が収められている。著者はそれらを四つに大別したと思われ、目次の表記にそれが認められる。その四つとは、(ア)「龍介の天上」などの民話の再話、(イ)「海の夢山の夢」などの主として少年の日常生活を題材、(ウ)「揺籃の唄の思ひ出」などの主として少女を主人公にした民話ふうの作品、(エ)「晴れ渡る元日」などの善行物語、となる。この四つはその後の宇野の作品傾向を代表しているのだが、特に(ア)の分野から後年「春を告げる鳥」が生まれることになる。
 小型の本書の装幀は美しく仕上がっていて、その装幀を担当した小出楢重は、大阪の出身、大阪の洋画研究所に属し、宇野は彼の絵を好んだ。

[解題・書誌作成担当] 竹内長武