表紙と函 本文 挿絵

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 北原白秋(1885〜1942)の第一童謡集で、28編の童謡を収めている。そのうち24編は『赤い鳥』の創刊号(1918年7月)から1919年11月号までに発表されたものである。
 1918年、『赤い鳥』の創刊を契機として芸術的な香気の高い子どもの歌としての「童謡」が誕生したが、北原白秋はその童謡勃興期の代表的な詩人として活躍した。この『とんぼの眼玉』は白秋のそうした創造活動の最初の集約であるとともに、童謡という新たなジャンルの誕生を記念するメルクマール的な存在でもあった。白秋は「はしがき」の中で、わらべ唄の心をベースに新しい童謡を築き上げなければならないと主張したあと、「ほんたうの童謡は何よりもわかりやすい子供の言葉で、子供の心を歌ふと同時に、大人にとつても意味の深いものでなければなりません。」と述べているが、この「わらべ唄の心」に立った「童心童語の歌謡」という主張を端的に具現したのが、童謡集『とんぼの眼玉』の諸作品であったと言えよう。その特徴としては、表題作の「蜻蛉の眼玉」をはじめ「夕焼とんぼ」「のろまのお医者」など、伝統的なわらべ唄の精神や表現スタイルを継承・再創造した童謡が数多く収められていることがまず挙げられる。また「あわて床屋」「物臭太郎」などの物語詩や、リズム感あふれる「りすりす小栗鼠」「お祭」など躍動感に富んだ作品も多く、初期の白秋童謡の活気を感じさせる童謡集である。
 また「絵入」の童謡集と名づけて、3人の画家による挿絵27点を載せたのも斬新な編集であったと言えよう。なおこの童謡集は15版を重ねたところで普及版として装幀を改め、1924年アルスから刊行された。その際、表紙の装幀は矢部季から森田恒友に変わり、判型が若干大きくなり、背は丸背となった。また挿絵は多色刷りが1点だけとなり、他はすべて墨一色のものとなっている。1971年ほるぷ出版より復刻版が出た。

[解題・書誌作成担当] 畑中圭一