函と表紙 本文 挿絵

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 本書は武者小路実篤(1885-1976)の残した数少ない童話劇集で、岸田劉生の挿画も働いて美本に仕上がっている。
 出版元である阿蘭陀書房はそれまで一般文芸書を出していたが、児童書出版にも手を染めることになり、本書がその第一冊となった(ただし、児童書はこの一冊のみの出版となったようだ)。広告には「外装欝金木綿木版色刷、凸版密画二十三葉挿入、印刷鮮明全巻SP、四六版箱入空前の美本」と「美本」を売り物にした。装幀・挿絵を担当した岸田劉生は自らその仕事を名乗り出たという。
 収録作品の「カチカチ山」と「花咲爺」は『白樺』(1917.7)に同時に発表したもので、本書はそのほとんどすぐに出版に入ったことになる。そこには、実篤自身が読者・観客としての子どもへの意識が働いていた。実篤は「六号雑誌」(『白樺』前出)で「子供がこの芝居を見て芸術的の興奮を心に感じてくれなければ失敗だ」と記して、子どもとの結びつきを求めていた。岸田による挿画を実篤は気に入り、「花咲爺」の原画10枚を画帖にして愛蔵したといわれる。
 戦後に出た文庫版『かちかち山』(西荻書店、1951)は版を重ね、実際に学校で演じられたようで、手軽な脚本集として活用された。この文庫刊行に尽力した塚原健次郎は、武者小路の思想性・生命観を高く評価している。こののちには、英訳本『TWO FABLES OF JAPAN』(名取順一訳、北星堂、1957)も出た。1971ほるぷ出版より復刻版が出た。

[解題・書誌作成担当] 森井弘子