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 与謝野晶子(1878〜1942)は、1908年4月から連続して『少女の友』に短編童話を寄稿し、1912年には1年間にわたる長編少女小説を連載している。こうした繋がりから、実業之日本社が企画した愛子叢書の第4編に晶子が執筆を依頼されたものと思われる。広告によれば当初の企画中に晶子の名前は見えないが、第5編の野上弥生子と共に、女性作家の執筆は叢書に新しさを感じさせるものとなった。
 本書は、12回目の誕生日を迎えた綾子が、その夜から8日間神様に預けられ、8人のさまざまな境遇の少女に変身するという話である。1章ごとに一晩をあて、全8章からなる枠物語の形をとるが、たんに連続した8つの物語ではなく、綾子が7夜目に変身した病身の少女の家を、最初の夜に変身した盲目の少女が訪れてきたり、最後の夜に変身した不思議な山の少女が、数日後に綾子の父に連れられて家にやってきたりするという工夫のある構成になっている。
 画家の父親と賢明な母親のもとで何不自由なく暮らしてきた綾子が神様に預けられるのは「いろいろの経験をさせるため」である。年齢は同じだが、生活水準や暮らしている場所、家族構成がそれぞれ異なる少女に変身して「いろいろの経験」をする。盲目で揉療治をして働く少女、寮住まいの給費生、漁師の娘、国際航路の船の給仕として働く少女、出家する公爵の姫君、子守奉公する少女、病気の娘、動物と話せる不思議な娘などである。当時の少女が置かれた社会的な状況を反映して、8人の少女の半数はすでに働いているが、不幸な少女としては描かれていない。当時のいわゆる少女小説には哀話ものが少なくなかったが、本書のように、自分の置かれた状況の中で最善を尽くし、将来への夢を持って意志的に生きる少女たちを描いた作品はユニークである。
 再版の情報はないが、同じ出版社から1922年7月に装幀をかえて改訂版が出た。1974年ほるぷ出版より初版が復刻された。

[解題・書誌作成担当] 古澤夕起子