表紙 本文 挿絵

(画像をクリックすると大きな画像をご覧いただけます)
 1910年から1950年頃までの日本児童文学を代表した作家・小川未明(1882〜1961)の第1童話集で、本書は〈お伽噺〉と〈童話〉のはざまに位置するものである。表紙に「おとぎばなし集」とあり、表題作「赤い船」と付録「お伽小説・森」以外は、明治を代表する巌谷小波風のお伽噺に分類され、童謡5編はわらべ歌ふうの作品。注目されるのは、大正期の未明童話につながる「赤い船」と、「お伽小説」の角書きをもつ「森」を付録として収録していること、およびその序文である。
 「赤い船」は、少女の美しいものに心ひかれていく内面世界を、はかない「憧憬」として象徴的に描いた童話である。「お伽小説・森」はその少年版ともいえる作品で、主人公は神秘的なものに心ひかれ、不思議な少年に誘われて月夜の森に入り込んでしまう。この作品には少年時代への「郷愁」が感じられ、当時未明が小説と童話をどのように考えていたかを知る上で貴重である。序文は、その後の未明童話のみならず、初期小説の特色を考える上からも興味深い。短いものであるが、子ども時代の空想への着目、故郷の自然との結びつき、人生の響きとしての子どもの真情など、初期未明文学の特徴を端的に語るものでもある。
 1971年ほるぷ出版から復刻版が出た。

[解題・書誌作成担当] 畠山兆子